Brief Summary of Each Supplement
Progress of Theoretical Physics Supplement No. 182
Stationary Phase and Macrovariable
— From Wave to Particle —
福田 礼次郎
多くの自由度を持つマクロな系では、系全体としてのニュート的な振る舞いと、
その系に含まれるミクロな自由度の量子力学的な振る舞いが共存する。この事
実を説明する鍵は、経路積分に現れる定常位相の有無である。
実際、マクロな系を量子論で扱う際、揺らぎを失うマクロ変数と呼ばれる変数が
自然に定義できる。自由度の 数を N として、マクロ変数は、
多くの (オーダー N の) ミクロ変数の平均で定義され、
マクロな系の全体としての運動はこのマクロ変数の変化で決定される。
N 粒子系を経路積分で扱うと、系のマクロ変数が定常位相で決定され、
揺らぎを失って点粒子のように振る舞うことが示される。
日常に現れるマクロな系では、古典的な軌道をもったこのようなマクロ変数
が全体としての運動を記述し、残りのミクロ変数には定常位相は効かないので、
それらは揺らぎを持った量子変数で、マクロ系が内蔵する原子や分子を作る。
以上のことを、いくつかの例で示すとともに、一般のマクロ系で定常位相の
存在を論じる。
観測の問題に現れる測定器の変数として、上のようなマクロ変数を用いると、N
が無限大では理想的な観測プロセスとなる。
実際ミクロとマクロの間の写像を確立するのは、マクロ変数に現れる定常位相で
ある。このことから、確率と波動関数の絶対値の2乗の間の関係が導かれる。
N が大きいが有限であるような現実的な系では、補正項が 1/N
展開の形で系統的に計算できることが示される。この補正項は測定可能である。
波束の収縮の一つのモデルとして、通常の量子力学で使用される時間変数 t
は、もっと基本的な時間変数 τ の粗視化されたもので、
τ で見れば決定論的な軌道 (揺らいでいるが) が定義できるものとする。
波動関数は密度の平方根を粗視化のスケールで平均したものである。このような
対象を観測する際、マクロ変数を用いると定常位相が効いて、正しい確率公式が
得られる。
定常位相の性質と、系が熱力学的に正常な系であるかどうかが密接ににかか
わっていることを示す。
マクロな系が熱力学的に正常な系であるための条件を、N-粒子系の量子力学
の場合、場の理論の場合に応じてそれぞれ議論する。
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