コロナウィルス COVID-19 の広がり方について、 それぞれの感染爆発では陽性者数データが 2重指数関数(ゴンペルツ関数)で近似的に表せていることを [1. 論文 (ONF2020)]で示しました。 こうした考え方は[3. 論文 ONF2020 の参考文献[2-20]]で 様々な国のデータで議論されており、 [2. M. Levittの online lecture & Levitt et al. 2020]でも 多くの国に当てはまることが述べられています。 また[4. Nakano-Ikeda 2020]では 一週間あたりの感染者増加率(K値)の振る舞いから 感染率が時間の関数として指数関数的に減少していることを (上で挙げた研究とは独立に)推測しています。 こうした指数関数的に減少する感染率の下では、感染者数はゴンペルツ関数で 表されます[2,9]。
これらの結果をまとめると、 「スケーリング変数の関数として表すと、 多くの国の規格化したCovid-19感染者数データは 一つの曲線(ゴンペルツ曲線)に乗る」ことがわかります (下図ではスケールした日々の新規陽性者数とゴンペルツ関数の微分を比較)。 多くの国のほとんどのデータ点 [5. ourworldindata] はゴンペルツ曲線(黒線)の周り(± 20%の範囲)に 入っています。
論文 ONF2020 では主として 5/20 までのデータを使っていたのですが、
一ヶ月経ってみると一本のカーブには乗らない国がいくつか出てきました。
少し分析した結果を残しておきたいと思います。
以降、tは 2019/12/31からの日数 (2020/01/01で t=1, 単位は日)とします。
(以下の内容はrevised version
(medRxiv,v2, Sep. 05, 2020)
のappendixにまとめました。)
Swedenは厳格な都市封鎖を行わず、social distancing と 50人以上の集会禁止のみで コロナウィルスと戦っている国です。 それでも5/20(t=141)までは一つのゴンペルツ関数でよく説明できており、 遅いけれども収束しつつあるなあ、と思っていました。 ところが、論文ONF2020で分析した期間の後、急速に感染者が増えており、 何らかの政策の失敗かと疑ってしまいました(上図参照)。
図をみるとt=140くらいから陽性者数が増えています。 ただしほぼ同時にPCR検査数も増えていて、陽性率はそれ以前と同様で10%程度。 この陽性率は一日あたりの陽性者数が最初のピークであったt=100(April 9)付近と 比べると下がっています。 PCR検査を行う範囲を増やしたことが原因と推測できます。 実際、Swedenでは5/19に症状が軽い人もテスト対象とするように変更し [6]、 6/4にCOVID-19の症状が疑われる全ての人が無料でテストを受けられるようにしたとの ことです [7]。 病床の空きが増えて余裕が出てきたため、症状の軽い人も含めて検査を増やし、 陽性数は増えているものの陽性率は下がり、死者数も特に増えていません。 集団免疫が成立するか否かは別として、 陽性者が増えていはいるが、深刻な状況ではなさそうです。
もう一点。
Swedenは人口あたりの死者数が多い国としても知られています。
主たる原因は介護施設(nursing homes)での感染拡大を防げなかったことでしょう[7]。
もう一つにSwedenの政策判断があります。
Swedenはコロナウィルスの感染が広がった4/11以降、
80歳以上の新型コロナウイルス感染者、また病歴がある60歳以上の感染者が
特別治療病棟(ICU)の入院優先順位から除外されています。
高福祉を長く保持しており、
国民の多くが十分な福祉を受けたと納得している国だからこそできる
医療リソースの使い方といえるかも知れません。
(July 15, 2020)
ほら、(だいたい)予想どおり。
一ヶ月後の結果。パラメータは7/5での値をそのまま使用。
検査数は[5]でうまく収集できていないようなので、
7/5時点での検査数を使用。
前後7日間のデータを描いているため、7/5の図よりも滑らか。
8月に入ってからまた何か検査方法に変化があったのか、
予測よりも陽性者数は増えているが、概ね予想通り。
介護施設での感染予防体制が整ったのか、死亡者数は予測を下回る。
個人的にはSwedenの政策は(一般に思われているよりも)妥当なものに思えます。
(August 15, 2020)
日本も緊急非常事態宣言を解除してしばらく経った6月以降、 急速に陽性反応者が増えています。 思いつく理由としては
一方で死者数は増えていますが、陽性者の数に比べればかなり少ない。 図の破線(灰色)は陽性者をフィットしたカーブを2週間後ろにずらし、 0.05を掛けたものです。 6月末まではほぼ「陽性者になった人の5%が平均的に2週間後に死亡する」との 傾向を示していましたが、7月以降はこの死亡率が1/7程度に下がっているようです。 この理由としては、
2番目の理由候補について少し補足しておきます。 PCR検査でウイルスを倍増していき、しきい値を越えた時のサイクル数 (Ct値, cycle threshold value)が日本では40回までなら陽性と判断されます。 Ct値が大きい場合には感染力が小さく、 例えば台湾では Ct<35 で陽性と判断されています。 4-5月までは濃厚接触者・有症状者のみを検査対象としており、 おそらく陽性者の中でCt値の小さい人が多かったと思われます。 現在は検査対象が広がっており、Ct値の大きな人も陽性と判断されているため、 以前よりも陽性者が増えている一因になっていると考えられます。 (Ct値の分布とその時期依存性が知りたいなあ...)
個人的には 3番目の理由候補(ゲノム変異)が一番しっくり来ます。 2月の感染の主であった中国産と比べて、3-5月の感染拡大を起こしたヨーロッパ産は 感染力が上がったとの議論があります。 6月の変異(日本産?)により感染力は増したが弱毒化して死亡率が下がったと 考えると陽性者の増加と死亡率の低下が同時に説明できるためです。
原因は複合的と考えられますし、
お盆の期間で陽性者数が抑えられているという事情があるかも知れませんので、
原因を特定するのは時期尚早でしょう。
いずれにせよ高齢者への感染拡大が起こらないように気をつけることが大切でしょう。
(August 15, 2020)
アメリカも同様に最近(t=160, 6/8あたりから)感染者が増えています。 この増加は5/20までに全州行われたロックダウン解除の影響と考えられています。 また 5/28あたりから行われた大規模なデモの影響もあるかも知れません。 (デモで大声で叫ぶなら、せめてマスクして欲しい...)
日本よりはもう少し深刻な状況かも知れませんが、
陽性者数・死亡者数ともにGompertz関数を3つ使うことで比較的よくfitできます。
面白いことに、日本の場合と同様に陽性者数の関数をずらしてスケールすると、
5月末まではかなりよく死者数を説明できます。
(ただし日本とちがってずらす日数は7日、陽性者の死亡率は7%として描画しています。)
6月以降は日本と同様に死亡率が減少しているようです。
陽性者数の立ち上がりは t=130 程度なので日本より早い。
もしかしたらアメリカでもウイルスが変異を起こしたのかも知れません。
(August 15, 2020)
In UK, the peakout time was t=t0=110.6 (=t1=106.1)
in the single-outbreak (multiple-outbreak) analysis.
The lockdown in UK started on March 23 (t=83),
and the K value started decreasing after around two weeks
(t=97, t-toffset=37) as seen in the left panel of the figure.
However, the number of cases started increasing again at around t=120.
Thus the lockdown might be helpful to suppress the spread for some time,
but it was not possible to stop the increase of positive cases
for a longer period.
For the second increase around t=120 (t-toffset=60),
there are three possible interpretations.
One is to consider that there is one outbreak,
which was not stopped by the lockdown.
The second is to consider that the lockdown stopped the first outbreak,
but the it was not possible to avoid the second outbreak.
The third is due to the increase of number of PCR tests.
Before t = 110, the number of tests was around 2 x 104
per day or less and the positive ratio was around 50 %,
suggesting that the number of tests was not enough.
After t=120, the daily number of tests is more than 5 x 104.
Then it is reasonable for the number of new cases to increase.
From the number of new deaths as shown in the right panel of the figure below,
the first interpretation is likely.
In any of these interpretations, it seems that the lockdown in UK
was not very effective to stop the coronavirus spread (or the increase
of people tested positive) for a long period.
But it seems that the lockdown stopped the next outbreak to startup.
(August 23, 2020)