線形代数と数え上げ

高崎金久著,日本評論社 2012年6月刊行.A5判189ページ,2800円+税,ISBN978-4-535-78680-6. [概要, 目次, 訂正]
増補版2021年12月刊行.A5判216ページ,税込 3,190円,ISBN 978-4-535-78961-6.

増補版

幅広い応用をもつ「フック公式」を増補した.


概要

与えられた条件を満たすものの個数を求めることを「数え上げ」という. 数え上げ問題は組合せ論の古典的なテーマであり,高校数学でも 順列・組合せなどの話題を通じてその一端を紹介している. 高校で学ぶ数え上げの手法は素朴であるが, 今日の「代数的組合せ論」と呼ばれる分野では可換環論,有限群論, 表現論などからさまざまな代数的手法を取り入れている. また,数理物理学やそれと関連する数学の諸分野においても 数え上げ問題は重要であり,近年は興味深い題材が数多く見出されている.

本書は雑誌『数学セミナー』で2010年4月号から2011年6月号にかけて 「線形代数と数え上げ」という表題で連載した記事の単行本化である. この連載のテーマは行列や行列式など線形代数の道具を用いて 各種の数え上げ問題を扱うことだった.連載開始時には 平面分割・3次元ヤング図形の話を中心に据えて, 最後にごく簡単に完全マッチングの話を紹介する予定だったが, 連載途中で構想を練り直し,完全マッチングの話の後に 全域木の話を追加することにした.単行本化にあたっては, 平面分割・3次元ヤング図形の話を第I部に, グラフ理論に関する話を第II部にまとめた.さらに, 入門的読者のために線形代数の基礎事項を,また,専門的読者のために 発展的話題の紹介を,それぞれ付録として新たに書き加えた. なお,連載の初回・第10回・最終回を除けば,元の記事は (必要な修正や訂正を行った以外は)ほぼそのまま収録している.


目次

第 1 部 3次元ヤング図形の数え上げ
  第 1 章 平面分割と非交差経路
      1. 3次元ヤング図形と平面分割
      2. 平面分割と非交差経路
      3. 非交差経路の数え上げ
  第 2 章 LGV公式
      1. 有向グラフに関する言葉と記号
      2. LGV公式
      3. 2本の非交差経路の場合の証明
      4. 一般の場合
  第 3 章 平面分割とシューア函数
      1. 平面分割の重み付き数え上げ
      2. シューア函数との遭遇
      3. ヤング盤による解釈
      4. ヤング盤のもう一つの見方
  第 4 章 ヤコビ-トゥルーディ公式
      1. シューア函数のヤング盤表示
      2. 非交差経路和としての解釈
      3. ヤコビ-トゥルーディ公式
      4. もう1つのヤコビ-トゥルーディ公式
  第 5 章 非交差経路とフェルミオン
      1. ヤング図形とマヤ図形の対応
      2. 非交差経路の粒子的描像
      3. ヤング図形の成長過程
      4. 歪シューア函数
  第 6 章 ワイルの指標公式
      1. 表現指標としてのシューア函数
      2. 指標公式
      3. 指標公式の導出
      4. コーシー等式
      5. 次元公式
  第 7 章 マクマホンの公式
      1. 箱入り平面分割の個数公式
      2. 個数公式のq変形
      3. マクマホン函数
      4. 2項係数のq変形との関係
  第 8 章 平面分割の対角断面
      1. 対角断面
      2. 対角断面と半標準盤の関係
      3. 3つ組の数え上げ母函数
      4. 長方形のヤング図形のシューア函数再論
  第 9 章 平面分割と非交差閉路
      1. デブライン閉路
      2. 角転送行列
      3. 小行列式の積の足し上げ
      4. デブライン閉路と対角断面の関係

第 2 部 完全マッチングと全域木の数え上げ
  第 10 章 ダイマー模型
      1. 2部グラフの完全マッチング
      2. タイル張りとの関係
      3. ダイマー模型の定式化
      4. カステレイン行列
  第 11 章 カステレイン行列
      1. ダイマー模型の定式化
      2. 行列式の展開
      3. マッチングの回転
      4. 定符号条件が成立するための条件
      5. 分配函数の行列式表示
      6. 相関函数の行列式表示
  第 12 章 有限正方格子上のダイマー模型
      1. 2×n 格子の場合
      2. 2×n 格子に対する行列 K
      3. 対角化によって K の行列式を求めること
      4. 一般のサイズの格子の場合
      5. 2m×2n 格子の分配函数を求めること
  第 13 章 パフ式とその使い方
      1. パフ式とは何か
      2. パフ式の基本的性質
      3. ダイマー模型への応用
      4. 非交差経路和への応用
  第 14 章 全域木の数え上げ
      1. グラフのラプラシアン
      2. 木の数え上げ
      3. 行列と木の定理の証明の概略
  第 15 章 全域木と完全マッチングの対応
      1. 正方格子グラフとその双対グラフにおける全域木の対応
      2. 完全マッチングとの対応
      3. G_m,n, G^*_m,n の全域木の数え上げ
   付録 A 線形代数の道具箱
      1. 置換
      2. 行列式
      3. 余因子
      4. ヴァンデルモンド行列式
      5. 固有値問題
      6. コーシー-ビネ公式
      7. フレドホルム展開公式
   付録 B 発展的話題
      1. 対称性をもつ3次元ヤング図形の数え上げ
      2. 左右対称な3次元ヤング図形の数え上げ
      3. トーラス上のダイマー模型


訂正

注意:以下ではHTMLで書くのが難しい表現を代替表示しています. (例)a に上線をつけたものは a-, 波線をつけたものは a~で代用しています. また,a の平方根は √a と表わしています.