講演概要


広田良吾(早稲田大学名誉教授)  『パフィアンの加法公式』

パフィアンの加法公式を一般化する。この公式を使うと高次離散BKP方程式とその解の構成が簡単になる。
その結果
1)4次(独立変数4)のBKP方程式が2種類存在することが分かった。
2)この公式は Higher order nonautonomous BKP 方程式にも自然に拡張される。

大久保直人(東京大学大学院数理科学研究科)  『離散可積分系とクラスター代数』

クラスター代数とは2002年にFominとZelevinskyによって導入されたもので
quiver mutationという操作を用いて定義することができる。
本講演ではまずクラスター代数の定義を例を用いて説明し
クラスター代数の定理であるローラン現象について紹介する。
その後quiver mutationによってperiodic quiverから差分方程式を得る方法と
periodic quiverの一般化として離散KdV方程式や広田・三輪方程式のquiverが得
られたこと、係数つきクラスター代数を考えることで非自励差分方程式のローラン現象に
関連してq-パンルヴェ方程式があらわれることを紹介する。

間瀬崇史(東京大学大学院数理科学研究科)『ローラン現象と離散可積分系』

ローラン現象とは、離散方程式の初期値問題を考えた際に解が初期値のローラン
多項式になる現象である。これはクラスター代数において発生した考え方であり、
クラスター代数においては、任意のクラスター変数が初期変数たちのローラン多
項式になるということが知られている。
本講演ではクラスター代数から離れ、ローラン現象という性質にのみ注目する。
離散可積分系に登場する様々な双線形方程式がローラン現象を満たすことを紹介
したのち、可積分性との関係について議論する。

關戸 啓人(京都大学情報学研究科) 『離散可積分系と事前情報付き線形回帰モデル』

実験計画法において,回帰モデルのパラメータを推定する際に,ある基準で,最も精度良く
推定できる説明変数の組をD-optimal designという.これは一般的には求めることは難しいが,
カノニカルモーメントを用いることで解析的,または,数値的に求めることができる例が知られている.
本講演では,カノニカルモーメントを離散可積分系を用いて一般化を行い,D-optimal designを
数値的に計算できる回帰モデルのクラスを広げる.特に,多項式回帰モデルに対するいろいろな
D-optimal designについて,事前情報を与えるという拡張を行い,そのD-optimal designを
数値的に求める方法について述べる.

上岡修平(京都大学大学院情報学研究科)『格子路の組合せ論から見た可積分系とその周辺』

組合せ論の問題として格子路の数え上げを扱うとき、
有用な解析ツールとして連分数や直交多項式などがある。
またそこから可積分系との繋がりも自然に導かれる。
本講演では離散戸田方程式等の離散可積分系の初期値問題を考える。
特に任意時刻の解を初期値(とパラメータ)を用いて書き下すとき、
格子路の数え上げ(と対称関数)による組合せ論的な表示が
可能であることを示す。またその超離散類似についても考察し、
離散系における格子路の数え上げ問題が、超離散化の手続きを通して、
格子路の重み最小化に関する組合せ最適化の問題に帰着することをみる。

村田実貴生(青山学院大学理工学部) 『非可積分系の離散化と超離散化』

超離散化は与えられた差分方程式をセル・オートマトンに変換する極限操作である.この手法で構成されたソリトンセル・オートマトンは元の方程式の厳密解の構造などの特徴を保存することが知られている.
我々は可積分系に限らない一般の微分方程式に対して超離散化を行う系統的な方法を見出した.その方法は1階の常微分方程式や反応拡散系の偏微分方程式に適用できるものである.
今回は反応拡散系の方程式のうち,式のパラメータ変化により様々な時空間パターンを形成することで知られる Gray-Scottモデルに対して,その離散化および超離散化モデルを構成し,元の微分方程式モデルと同様の時空間パターンが観察されるかを検証した結 果を報告する.

大田佳宏(東京大学先端科学技術研究センター) 『転写過程の超離散モデリングとシミュレーション』

遺伝子の転写過程とは、RNA polymerase II (RNAPII)という酵素が移動することによってDNA配列を鋳型に遺伝子情報が読まれ、RNAが合成される現象を指す。このRNAからアミノ酸を経てタンパク質が作られるため、遺伝子の転写は生命の基本原理と考えられている。
本研究では、この転写過程におけるRNAPIIの時空間ダイナミクスの解析に焦点を絞り、
超離散系Cellular Automaton (CA)のTotally Asymmetric Simple Exclusion Process (TASEP) を
ベースにして転写過程のモデリングとシミュレーションを行った。
得られた結果は、ヒトの細胞を用いた薬物応答を調べる生物医学実験結果の再現に成功した。
その結果、従来とは異なる長い時空間における相関の発見や転写過程の新しいメカニズムの予測なども可能となった。

神吉雅崇(東京大学大学院数理科学研究科) 『有限体上の可積分系について』

本講演では有限体上の離散可積分系を扱う。
具体例として離散パンルヴェII方程式(dPII)を考察する。
まずdPIIは有限体上においても、初期値空間の拡張理論によりwell-definedとなるこ
とを示す。次にdPIIをp進数体上で考察し、p進数体上の系を有限体上に還元することによって、不定性無しに有限体上で時間発展を定義できる事を観察する。
離散力学系の還元に関するこのような性質を抽出し、'almost good reduction' 
(AGR) として定義する。AGRは有理写像に対するgood reductionの拡張概念となっており、離散系の可積分性判定の一手法となることを提案する。実際qPIIやqPIIIなどの系もAGRを持つこと、 AGRは特異点閉じ込め手法の代数的類似と見られる事を説明する。
最後にソリトン系への応用の可能性について議論する。

高橋大輔(早稲田大学理工学術院) 『非自励粒子セルオートマトン』

方程式の非自励項は,摂動や外力など,方程式の本質に対してやや副次的な
役割を担うととらえられがちである.しかしながらパンルベ方程式の自励化で
可積分写像が導かれる例などを考えると,非自励化は方程式をより広い枠組み
の中でとらえるための重要な過程である.そこで本講演では,第一積分が存在
する粒子セルオートマトンに対して非自励化を行った例を紹介する.
 非自励化を行う際のポイントは,系の時間発展方程式がコール=ホップ変換
可能という性質を保つことであり,系の基本構造を壊すことなく自然な非自励
化を行うことができる.また,導入された非自励パラメータは座標や時刻毎に
自由に値を定義でき,さまざまな拡張の入り口となる.講演では非自励パラメ
ータを確率変数にとった確率型粒子セルオートマトンの挙動について主に解説
するが,非自励パラメータを介した系の多成分化や外力による系の制御などに
ついても触れる予定である.

小林真平(弘前大学理工学研究科) 『Dressing 作用による可積分系の差分化について』

KdV方程式、(双曲型)Sine-Gordon 方程式など可積分系の差分化は応用においても非常に大切
であって、さまざまな試みがなされてきました。本講演では、その1つとしてdressing 作用による
差分化を考えます。
ここで、Dressing作用とは真空解からソリトン解や周期解を与える手続きの事を意味しています。
真空解の差分化は比較的容易にできるので、Dressing作用を用いて良い差分化を探っていきます。
また既存の差分化とてDressing 作用の場合との比較検討もしたいと考えています。

金井政宏(東京大学大学院数理科学研究科) 『非平衡系のダイナミクスと特殊関数』

90年代に,可解格子模型で発展した転送行列の方法が格子上を運動する粒子系に
輸入され,平衡状態から遠い非平衡定常状態(NESS)の研究に新たな発展をもたら
した.NESSでは系の内部にエネルギーあるいは質量の定常な流れが存在し,熱平
衡状態が実現しない.(詳細釣り合いが破られている.)このような定常な流れ
は,状態空間内の確率分布の流れに対応し,マスター方程式の定常解として表現
される.マスター方程式を定めるマクロな状態間の遷移確率はミクロな確率的ダ
イナミクスから決まり,方程式は線形となる.本講演では,定常解に限らなくて
もマスター方程式が超幾何関数を解に持つような非平衡系のクラスを発見したの
で,これについて発表する.

土谷洋平(神奈川工科大学 基礎・教養教育センター)『非線形シュレディンガー方程式の楕円関数解について』

非線形Schrodinger方程式iy_t+y_{xx}-2y|y|^2=0の楕円関数解は、y(kx-ωt)とい
う進行波解の形で書かれる。方程式に含まれる絶対値の取り扱いに関連して, y
には複素共役条件と呼ばれる条件が課されるが, これを満たすために, よく知ら
れている解ではkx-ωtを実数あるいは純虚数に制限する。本講演では, kx-ωtが一
般の複素数の場合でも複素共役条件を満足する解が存在することを示す。そのよ
うな進行波解は,kx-ωtが楕円関数の周期平行四辺形の辺と平行でない直線上に
あるため, 直線がときどき楕円関数の極の近くを通り, そのときに解の絶対値が
非常に大きくなるなどの挙動を示す。既存の解は,kx-ωtが常に周期平行四辺形
の辺と平行な直線上にあるため,このような性質は持っていない。計算機による
シミュレーションの様子も見て頂く予定である。

辻本諭(京都大学情報学研究科) 『古典直交多項式の一般化と超可積分系』

はじめに古典直交多項式のその一般化について、Sturm-Liouville型の常微分方程式を
中心にJacobi多項式およびそのq-拡張、楕円拡張について簡単な説明を加える。
さらに可積分系および超可積分系との関係について紹介した後、例外型直交多項式および
その拡張であるmulti-index直交多項式に関する結果について解説する。
ここでは、例外型Jacobi多項式の積分表示および行列式表示を含め、2階の常微分および
常差分方程式の準多項式解を考えることで例外型直交多項式の特徴付けを与える。
最後に、例外型Jacobi多項式から自然に得られる2次元Hamiltonianを構成し、Hamiltonianと
可換な高次の作用素を与えることで、超可積分系としての性質を明らかにする。

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