ゲージ重力対応の具体例としては、まず1997年にMaldacenaが発見した反ドジッター(AdS)時空上の超弦理論が、その時空の境界上で定義された共形場理論(CFT)と等価となるといういわゆるAdS/CFT対応が挙げられる。西村氏と花田氏が主に数値的検証を行った対象は、多数のD0ブレインを記述する超対称量子力学が超弦理論のブラックホールを記述するという予想であり、AdS/CFT対応をより一般化した例に相当する。
西村氏と花田氏は、Anagnostopoulos氏、竹内氏と共同で超対称量子力学(16個の超対称性を有する1次元U(N)ゲージ理論)の新しい数値計算法を開発し、超弦理論のゲージ重力対応の数値的検証を行った。特に有限温度における内部エネルギーを数値的に計算し、結合定数が小さい時は高温展開の結果と一致し、また結合定数が大きい時はゲージ重力対応で予想されるブラックホール解からの結果と合うことを示した。
その後、西村氏と花田氏は超弦理論の弦の振動による補正も同じ手法で再現できることを竹内氏、百武氏と共同で確かめている。また両氏が、伊敷氏、百武氏と共同でScience誌に発表した論文では、超対称量子力学を用いて内部エネルギーの1/N補正を数値的に計算し、超弦理論で予想される量子重力効果による補正と合うことを報告している。そのほかにも関野氏、米谷氏と共同で、超対称量子力学の相関関数を数値計算し、ゲージ重力対応から予想される結果と合うことも確かめている。
これらの研究成果は、超対称ゲージ理論の数値計算法の開発とゲージ重力対応の検証の双方のテーマにおいて重要な貢献を成したと評価出来る。また同時にゲージ重力対応の研究の分野に、ゲージ理論の数値計算という新しい研究手法を導入してその有効性を実証した点も高く評価され、今後の発展が大いに期待できる。