====== 概要 ====== バンド計算では一般にバンドギャップを過小評価してしまう、あるいは半導体なのに金属と見積もってしまうという問題がある。 これを回避するためにいくつかの手法が考案されているが(例えばLDA+U法やハイブリッド汎関数法など)、現在もっとも精度よく値が出るのがGW近似と呼ばれるものである。 しかし、この手法はかなりの計算時間が必要で、極めて単純な構造の物質を除いてあまり実用的ではない。 そこで、GW近似の結果をお手軽に再現できるのが、手でポテンシャルを入れてバンドギャップを適正な値にする[[http://dx.doi.org/10.1103/PhysRevLett.102.226401|Tran-Blaha Modified Becke-Johnson (TB-mBJ)交換ポテンシャル]]を使った近似手法である。 WIEN2kではTB-mBJポテンシャルを公式にサポートしているので、簡単に計算をすることができる。 ====== 計算方法 ====== * 事前に通常の方法でSCF計算を行う。 * 磁気秩序を入れた系やスピン軌道相互作用のある系でもできるが、先にそちらをとりいれたSCF計算を済ませておくこと。 * LDA+Uと重複した使用もできるが、電子相関の効果を複数回取り入れることになり物理的によくわからない結果となってしまうので避けること。 - mBJの初期設定を行う $ init_mbj_lapw - 一度だけSCF計算を再実行し、ブロイデン法の履歴を削除する $ run_lapw -p -i 1 -NI $ rm *.broyd* - mBJの設定を完了させる $ init_mbj_lapw - case.in0abpにTB-mBJポテンシャル$c=A+B\bar{g}^e$を入力 * 例えば$A=−0.012$, $B=1.023$, $e=0.5$であれば -0.012 1.023 0.5 * $\bar{g}$の定義や$A$, $B$, $e$の値の選び方については[[http://dx.doi.org/10.1103/PhysRevB.85.155109|D. Koller, F. Tran, and P. Blaha, Phys. Rev. B 85, 155109 (2012)]]を参照 * 特に設定がなければcは元のTB-mBJの論文に出てくる値[[http://dx.doi.org/10.1103/PhysRevLett.102.226401|F. Tran and P. Blaha, Phys. Rev. Lett. 102, 226401 (2009)]]が使われる(上の例の値) - SCF計算を実行する $ run_lapw -p -i 1000 -ec 0.00001 -cc 0.0001 * なかなか収束しないので、SCF計算の回数は通常の10倍くらいにする。 これでTB-mBJポテンシャルを使った計算は終わり。 あとは状態密度やバンドを描いて、電子状態の変化を確認する。 x_lapwの実行時に特になにかフラグをつけなくても、自動的にmBJポテンシャルを考慮した計算になる。 適切なTB-mBJポテンシャルの選び方は、上で書いた論文の値をそのまま使うのも一つであるが、光学伝導度測定などの実験で得られたバンドギャップを再現する大きさに合わせるのが手っ取り早い。 $ grep ":GAP" case.scf ===== 収束しない場合 ===== - case.inm を開いて MSR1 -> PRATT にして、mixing factorを0.1にする PRATT 0.0 YES (BROYD/PRATT, extra charge (+1 for additional e), norm) 0.10 mixing FACTOR for BROYD/PRATT scheme 1.00 1.00 PW and CLM-scaling factors 9999 8 idum, HISTORY - SCF計算を実行する $ run_lapw -p -i 1000 -ec 0.00001 -cc 0.0001 -NI - case.inmで書き換えたものをもとに戻す。 MSR1 0.0 YES (BROYD/PRATT, extra charge (+1 for additional e), norm) 0.20 mixing FACTOR for BROYD/PRATT scheme 1.00 1.00 PW and CLM-scaling factors 9999 8 idum, HISTORY - SCF計算を再実行する $ run_lapw -p -i 1000 -ec 0.00001 -cc 0.0001 -NI もしこれでも収束しない場合、mixing factorを0.1から徐々に上げて0.2に近づけていくとよい。 参考:[[http://wien.zeus.theochem.tuwien.ac.narkive.com/8LgweDnR/about-mbj-convergence|About mBJ convergence]] ====== 参考 TB-mBJポテンシャルcの値 ====== ===== オリジナル論文 ===== -0.012 1.023 0.5 [[http://dx.doi.org/10.1103/PhysRevLett.102.226401|Fabien Tran and Peter Blaha, Phys. Rev. Lett. 102, 226401 (2009)]] ===== 絶縁体 ===== 0.488 0.500 1 [[http://dx.doi.org/10.1103/PhysRevB.85.155109|David Koller, Fabien Tran, and Peter Blaha, Phys. Rev. B 85, 155109 (2012)]] 実験で観測されているバンドギャップが7eV以上のものを絶縁体としています。 ===== 半導体 ===== 0.267 0.656 1 [[http://dx.doi.org/10.1103/PhysRevB.85.155109|David Koller, Fabien Tran, and Peter Blaha, Phys. Rev. B 85, 155109 (2012)]]