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   素粒子物理学にとって最大の謎は、クォークやレプトンの質量に見られる世代間の階層的構造である。クォークやレプトンが何故こんなにスケールの違った質量をもつのか、いまだに謎は解けていない。ここ10年あまりは標準理論を越える手がかりはなかなかつかめなかった。
 ゲージ相互作用常数の側面からは、相互作用の統一は少なくとも$SU(5)$ゲージ理論が示唆されており、既に我々は、標準理論をこえた統一理論が背後にあることは期待している。統一ゲージ理論の可能性として、$SU(5)$ , $SO(10)$ $E_6$ 等が提案さている。しかし、それ以上の統一理論の手がかりは得られなかった。これは、世代の起源に関するもっとも重要な情報の欠如によるものである。
 世代構造の起源については、さまざまな考察がなされてきたが、ゲージ統一と整合しながら、その階層的構造を説明できる大統一理論は、21世紀の素粒子論の大きな課題となることは間違いない。

 ところで最近、世代の構造に対して、いくつかの注目すべき情報が得られている。
 その1つは、大気ニュートリノ振動から得られた大きなニュートリノ混合角の存在である。よく知られているように、フェルミオンの質量は右巻きと左巻きの混合相互作用項である。そしてこの同じ相互佐用項が、世代の混合の起源となる。ニュートリノは右巻きがないのではないか、左巻きしか存在しないということは、他のクォークに質量を与えていた同じヒッグスではニュートリノの質量を与える事ができない事になる。そしてまた、それは、自然法則が左右対称ではないということを意味していた。
 ところが、ニュートリノ振動の事実が確認され、クォーク・レプトンともに、等しく質量項相互作用がある事が確かになってきた。しかも、ごくわずかなクォークの世代混合に対して、ニュートリノにみられるレプトン側の世代混合は、ほとんど最大値を示唆している。今まで、3つの「世代」としてまとまる質量がことなる一群のフェルミオンは、単なるくり返し構造だと思いこんでいたが、どうもそうではないらしい。ニュートリノ振動が、はじめてこうした世代構造の手がかりを与えてくれたといえる。
 この事実に注目して、パラレルでない世代構造を、如何に統一理論とつなげていくか、今、世界中の統一理論を目指していた研究者は、大気ニュートリノのデ−タに刺激されて動き始めている。


 第2は、最近階層構造のなぞを解く可能性として、4次元以上の理論が注目を浴びている。異次元に広がった素粒子像は、超弦理論の枠組みではすでに可能性としては、素粒子研究者の間では以前から認識されていた。
 しかし、超弦理論やM理論の枠組みからも、それはプランクスケールの領域で、当面その存在を確認するだけの情報は得られないと考えていた。しかし、最近それが、TEVスケールの可能性が指摘され、申請者もこれを真剣に受け止めるにたる可能性として強い興味を持っている。低いスケールの異次元の世界があるとすれば、それはどんな形でどういう可能性を与えるかは大変興味深い課題である。異次元の研究はそれ自身今まで、ほぼフォーマルなアプローチと現象論的なアプローチとの2つに分かれていた素粒子研究者共通の大変面白い課題で、この可能性を検討するためには、高次元の中に存在する膜(brane)の動的構造や、高次元に現れる新しい粒子の位置づけなど、いくつかの難関を突破しなければならない。それらの理論的諸問題とともに、それがもたらす現象論的帰結も集中して検討する必要がある。
 申請者は、この異次元構造の違いと世代構造が関係しているのではないかと考えている。それはいわゆる繰り込群の構造として捉えられるのではないかと考えており、この可能性の側面から、異次元構造に取り組みたいと計画している。


 第3に超弦理論にあらわれるアノマラス$U(1)$の違いによる世代構造の研究が、より多様な形で、超対称性の破れや、低いエネルギーの階層性の現われと結びついて、フレーバーを変える過程(FCNC)の問題を解決する興味深い研究がでてきたことである。これは、超対称性の破れの指標であるSクォークやSレプトンの質量に世代構造が関連しているといるらしいことが、最近特に分かってきた。こうなると単に、フェルミオンの質量だけでなく、その相棒である粒子の質量に現れる世代構造も大変興味深い対象として、総括的に検討する必要がある。
 申請者は、アノマラス$U(1)$によるクォークやレプトン、ならびにニュートリノなど、フェルミオンの質量構造についての検討をいくつかしてきたが、今回はSクォークやSレプトンの質量をも包括する検討に重点を置き、世代を含めた大統一理論の構築をを目指したいと考えている。

   申請者は今まで、クォークやレプトンの質量に見られる世代間の階層的構造に興味を持ち、標準理論を越える手がかりを得るための研究、特に統一ゲージ理論の可能性としての$SU(5)$を超える $SO(10)$や $E_6$に注目していくつかの仕事を行ってきた(1)。また、世代構造の起源と関連して、アノマラス$U(1)$をフルに利用した世代間の階層的質量構造に関する仕事もしてきた(2)。そして最近はニュートリノの大きな混合角に焦点を置いて、質量構造を再検討する仕事(3)、さらに、異次元の存在に焦点を当てたブレインの構造についても検討してきた(4)。

(1) クォーク、レプトンの質量の階層的構造をアノマラス$U(1)$チャージの違いによって説明する模型(業績リスト**)は、少なくとも今までの模型のうちでは、もっとも自然な世代構造の説明であることを示している。
(2) 特に右巻きニュートリノを含んだ模型としての統一模型としては$SU(5)$は不自然だという観点から、 $SO(10)$を集中的に検討した。余分なベクターライク世代を含む模型(業績リスト**)、3世代模型での一般的なニュートリノMjorana質量の構造、など検討してきた。また更に発展して $E_6$模型による世代構造の解明も行った。
(3) さらに、異次元の存在については、大きな次元の中にある4次元面では、膜のような構造を持っており、その揺らぎが4次元世界での現象に影響を与える事を示した(業績リスト***)。このようなブレインの構造を基礎にして、われわれは次の研究に進む事ができる。

 以上、世代構造の起源にせまるいくつかの側面での予備研究は十分にできているが、さらにこの方向で新しい可能性に挑戦したいと考えている。

  【世代構造の解明 】
 
 今年度も、ニュートリノ、高次元理論、アノマラスU(1)などの側面から世代構造を検討した。素粒子物理学の現在の最も大きな謎である「世代構造の起源」にせまる新しい発展のあった年であった。


1)
申請者は、この謎を解く鍵が太陽・大気ニュートリノ振動から得られた大混合角の存在であると考えるのは今でもその通りで、統一模型の枠組みではパラレルでない世代構造をだすためのtwisting mechanizumがこの原因であることをE6大統一模型の枠組みの中で検討した。
2)
太陽ニュートリノの大混合角がもっともらしいという報告を受けて、これをE6模型などの大統一理論の枠内で実現するかに焦点を合わせて検討した。
3)
この1年はアノマラスU(1)が、理論的には非常に面白いということが明らかになった。そして従来検討してきたE6模型とこれとを結びつけることによって、新たな統一模型の可能性が出てきた。
ニュートリノ振動によるもっともらしい解としては、bi-large 混合角の可能性が高くなってきたが、E6模型でこれを出す1つの可能性を示した。
4)
超弦理論にあらわれるアノマラスU(1)の違いによる世代構造については、ニュートリノを標的にして検討した。最近では、単にフェルミオンの質量だけでなく、いわゆるGUT近辺に現われるスケールの階層性をも説明できることを発見し、この枠組みに重点をおいた。

 階層構造のなぞを解く可能性の1つが異次元に広がった素粒子像であるが、今年度は、このアノマラスU(1)に焦点を当てた。将来、両者には何らかのつながりがあることを期待している。今年度は「4次元を超える物理と素粒子論」(共立出版)を中野氏と共著で出したが。これは大変勉強になった。新潟・山形大学合同の合宿型研究会に参加し「ニュートリノと統一模型」という解説講義を行った。

 
(1)  1年目の目標はまず、世代構造とニュートリノ質量の整合性を大統一理論の立場からつめる事、ならびに世代構造を異次元構造の違いとして出してみせ、模型を作る事である。
 前者については、$E_6$統一模型による、Twisted family structure 模型の提案をしたが、これをさらに精密につめて、実験との照合ができるところまで持っていきたい。またこの模型は、ミニマルな範囲では従来の標準理論にまで対称性が破れる機構が含まれていなので、超弦理論などのより大きな統一模型を視点に入れ、さらに、整合性のある模型作りを行う。
 後者については、世代構造の階層性を視野に入れて、異次元で予想される多くの粒子の繰り込み群に与える影響がどのような形で階層構造を出しうるか、3世代の階層構造を本当に出せるか、などを検討する。これらはすでに共同研究を行っている京都大学の九後氏や吉岡氏(来年度床かに移動する可能性あり)、野口氏などとさらに研究を進める。特に後者については、現在、金沢大学の久保氏たちと議論を始めている。
(2)  2年目は、これらの成果を踏まえて、ニュートリノのより正確な情報を踏まえて(おそらくKTKの実験やレプトンフレーバー変化などの理論的研究の進展が期待される) ニュートリノ質量混合のより精密な分析を試みる。
 また、異次元構造の多面的な研究と世代構造の起源にを結び付ける仕事をしたい。
(3)  第3年目は今から予測しがたいが、世代構造の起源についてゲージ統一と整合しながら、その階層的構造を説明できる世代を含めた大統一理論をめざして、しっかりした基礎をつくって、21世紀の素粒子論につなげていきたい。
 また、できれば異次元構造による宇宙の進化の歴史の再検討も試みたい。

 世代の構造に迫るには、どうしてもさまざまなアプローチをしている研究者との討論とアイデア交換が欠かせない。申請者は、愛知大学法学部に属しており、そのなかで一般教育を担当して、文系の学生に科学的なものの見方を訓練すると同時に、京都大学や東北大学、高エネルギー研究所などの若い研究者、地方に分散している若手の活動的な研究者とも活発な討論と共同研究の場を見出してきた。
 今回の異次元の可能性に関しては、すでに京都大学や金沢大学、あるいは名古屋周辺の三重大学、愛知教育大学、国学館大学などに分散している研究者とも興味が一致しているので、今後輪を広げていきたい。
 また、フェルミラボやCERNなどに散在している活発な研究者とも交流し、ワークショップや研究会で成果を発表していきたいので、海外出張費も必要である。

 また、この研究には、繰り込み群の計算や、ときには10行10列にもおよぶ質量行列などの計算も必要になる。このためのパーソナルコンピューターがもう古くなって使いにくくなっているのでそれも更新したい。
 以上が主な予算の使途である。

科学研究費補助金(基盤研究(C)(2))交付申請書より

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