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グループの研究内容
(04/04/2017 last update)
一般相対論的宇宙物理学。
具体的には、数値相対論、ブラックホールの形成、連 星中性子星の合体、ブラックホール・中性子星連星の合体、回転星の重力崩壊、 重力波放射、γ線バースト発生天体の形成、磁気流体現象、相対論的輻射流体 などに関する研究を行っている。最近は、高次元重力理論やスカラーテンソル 理論研究も数値相対論を用いて行っている。具体的研究内容は、以下のとおり である。
数値相対論
ブラックホールや中性子星といった一般相対論的効果が重要となる天体の形成、 合体といった過程を理論的に明らかにするには、アインシュタイン方程式を解 く必要がある。しかし、この方程式は連立偏微分非線形方程式と大変複雑であ り、対称性が高いなど特殊な場合を除いては、解析解を求めることは不可能で ある。コンピュータシミュレーションにより解を求めることが必要不可欠とな る。そこでアインシュタイン方程式を解くための定式化およびコード開発を行 なってきた。現在は様々なコードが完成に至っており、それらを様々な問題へ と適用している。
最近は特に、連星中性子星の合体、ブラックホール・中性子星連星の合体、星 の重力崩壊によるブラックホールの誕生、γ線バーストの発生源の形成、重力 波源の電磁波カウンターパート、高次元ブラックホールの性質の解明などに興 味を持ち、研究に取り組んでいる(以下参照)。
ただし、一般相対論的な輻射流体計算を完全に行うことはまだ実現していない。 最終的には、ボルツマン方程式を解くことを念頭において、コード開発や 定式化も進めている。
数値相対論に関する解説 (物理学会2006年5月号): /
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)
数値相対論に関する解説 (物理学会2015年2月号): /
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重力波の放出過程の理論的研究
一般相対論的でかつダイナミカルな現象が起こると、大抵の場合それらに伴っ て重力波が発生する。重力波の放射量が大きく、かつ比較的近傍で重力波が発 生した場合には、それらが地球上に設置された重力波検出器
LIGO
,
VIRGO
,
KAGRA(LCGT)
などによっ て検出される可能性がある。実際、2015年9月から本格稼働を開始したadvanced LIGOは、 連星ブラックホールからの重力波を遂に観測し、これらも続々と重力波が観測されるように なると期待してよい。
重力波が検出された時に、その波形が何を意味するのか、つまりどのような天体 から放出されたのかを明らかにするために、重力波の放射過程や波形に関する 理論的研究が必要となる。そこで、重力波に関連した理論的研究を幅広く行なっ ている。特に数値相対論を用いたシミュレーションにより、多数(1000程度)の 波形を導出し、来る重力波検出時のデータ解析に利用する計画を進めている。
数値相対論による 重力波のカタログ
(要パスワード)
連星中性子星の合体と最終状態
NS + NS --> BH
NS + NS --> HMNS
連星中性子星の合体は
LIGO
,
VIRGO
,
KAGRA(LCGT)
のような キロメートルサイズのレーザー干渉系を用いた重力波検出器の有望な源である とともに、γ線バーストの中心に存在するエネルギー源としても、一部理論家 から有望視されている。これらの仮説を理論的に調べるには、合体の様子をシ ミュレーションにより明かにすることが必要であるが、我々は数値相対論的シ ミュレーションにより先駆的にこの問題に取り組み、詳細な結果を得てきた。 (
古い関口アニメーション
)。 (
仏坂アニメーション
)。
最近はこれまでの研究を発展させ、ニュートリノ冷却、現実的状態方程 式を考慮したより現実的かつ詳細なシミュレーションを行うとともに、様々な 質量、状態方程式を考慮した数百におよぶ系統的なシミュレーションを、関口雄 一郎、木内建太、久徳浩太郎、仏坂健太らと行っている。
Animations for merger of binary neutron stars with microphysics (Sekiguchi et al; Animation by Kiuchi)
Density (x-y plane), 1.35-1.35 solar mass, Hyperonic EOS
Density (x-z plane), 1.35-1.35 solar mass, Hyperonic EOS
Neutrino luminosity (x-y plane), 1.35-1.35 solar mass, Hyperonic EOS
Neutrino luminosity (x-z plane), 1.35-1.35 solar mass, Hyperonic EOS
Temperature (x-y plane), 1.35-1.35 solar mass, Hyperonic EOS
Temperature (x-z plane), 1.35-1.35 solar mass, Hyperonic EOS
Density (x-y plane), 1.5-1.5 solar mass, Shen EOS
Density (x-z plane), 1.5-1.5 solar mass, Shen EOS
Neutrino luminosity (x-y plane), 1.5-1.5 solar mass, Shen EOS
Neutrino luminosity (x-z plane), 1.5-1.5 solar mass, Shen EOS
Temperature (x-y plane), 1.5-1.5 solar mass, Shen EOS
Temperature (x-z plane), 1.5-1.5 solar mass, Shen EOS
Animations for merger of binary neutron stars with piecewise polytrope
Density (x-y plane, wide), 1.35-1.35 solar mass, SLy EOS
Density (x-y plane), 1.35-1.35 solar mass, SLy EOS
Density (x-z plane), 1.35-1.35 solar mass, SLy EOS: After merger
Density (x-y plane, wide), 1.2-1.5 solar mass, SLy EOS
Density (x-y plane), 1.2-1.5 solar mass, SLy EOS
Density (x-z plane), 1.2-1.5 solar mass, SLy EOS: After merger
Density (x-y plane, wide), 1.35-1.35 solar mass, Steiner EOS
Density (x-y plane), 1.35-1.35 solar mass, Steiner EOS
Density (x-z plane), 1.35-1.35 solar mass, Steiner EOS: After merger
Density (x-y plane, wide), 1.2-1.5 solar mass, Steiner EOS
Density (x-y plane), 1.2-1.5 solar mass, Steiner EOS
Density (x-z plane), 1.2-1.5 solar mass, Steiner EOS: After merger
ブラックホール・中性子星連星の合体
ブラックホール-中性子星連星の合体は、最も有望な重力波源の1つであり、 また天体物理学的にも興味深い研究対象である。この系の最後の運命は、 ブラックホールと中性子星の質量比で大きく2つに分けることが出来る。仮に 中性子星の質量を太陽の1.4倍、半径を10kmとし、またブラックホールは回転 していないとしよう。すると、ブラックホールの質量が太陽質量の約4倍以上 であると、中性子星は最終的にブラックホールに飲み込まれ、ブラックホール の質量が増えるのみで合体が終る。一方、ブラックホールの質量がそれよりも 小さいと、中性子星は飲み込まれる直前に潮汐破壊される。潮汐破壊される場 合には、中性子物質がブラックホール回りに降着円盤を作り、ガンマ線バース との中心エンジンになるかもしれない。重力波源としての性質、および合体後 に誕生する天体の性質を解明するため、数値相対論を用いたシミュレーション 研究を進めている。この研究は久徳浩太郎、川口恭平が主に進めている。
Animations: Density in the orbital plane (By K. Kyutoku)
HB_Q5_M135_S75
HB_Q4_M135_S75
HB_Q2_M135_S75
HB_Q2_M135_S-5
HB_Q2_M135_S0
HB_Q2_M12_S0
B_Q5_M135_S75
B_Q3_M135_S0
B_Q2_M135_S75
H_Q5_M135_S75
2H_Q2_M12_S0
Gravitational collapse/ブラックホールの形成
質量が太陽質量の約30倍を超えるような非常に重い星は、進化の最終段階で 重力崩壊を起こしブラックホールを形成すると考えられている。また、連星中 性子星が合体したり、中性子星に多量の質量降着が起こるとブラックホールが 形成される。したがって、宇宙には太陽質量の2倍から数100倍程度の質量 を持つブラックホールが、大量に存在していると考えられる。
一方、多くの銀河の中心には太陽質量の百万から数百億倍の質量を持つ 超巨大ブラックホールが存在することが最近の観測から明かになりつつある。 しかしながら、その形成メカニズムは良くわかっているとは言えない。
さらには宇宙のごく初期には、密度ムラから質量が太陽質量程度の原始ブラッ クホールが多数形成されたとする理論もある。
またある種の理論研究によると、初代天体(種族III)は数100太陽質量の恒星で ある可能性が指摘されており、その進化の最終状態は数百大量質量のブラック ホールである可能性がある。
これらさまざまなスケール、異なる状況下におけるブラックホール形成を、現 実的な問題設定の下で明かにすることは、今後の重力波観測や高エネルギー天 体物理学とも絡んで重要であると考えられる。我々はこれらの問題を、主にシ ミュレーションを用いて研究している。
アニメーションに関しては、γ線バーストの欄を参照。
高速自転する中性子星の不安定星
一般に、星は高速で回転していたり、あるいは著しく差動回転していると非軸 対称に変形し易い。非軸対称に変形すると重力波を放出するので、高速回転す る中性子星は有望な重力波源の1つである。そこで中性子星がどんな条件を満 たせば非軸対称不安定かするのかについて、研究を行なっている。最近では、 重力崩壊、高速回転原始中性子星の誕生といったプロセスを首尾一貫してシミュ レーションすることによって、この問題に取り組んだ。
Instability of differentially rotating star
一般相対論的磁気流体シミュレーション
Collapse of Hyper Massive NS: Magnetic field line and Density
宇宙には、磁場が重要な役割を果たす天体現象が多数ある。超新星爆発や連星 中性子星の合体もそういった天体現象かも知れない。磁場が存在し、かつ天体 が差動回転していると磁場が捻られたり、あるいは磁気流体不安定性によって 磁場が増幅し得る。初期のほんの小さな磁場でも、時間が立てば天体の構造を 変化させるほど増大する可能性がある。例えば、差動回転する中性子星内では、 磁場は捻られ増大し、角運動量輸送を引き起こし、中心をブラックホールへの 重力崩壊へと導くかも知れない。また超新星爆発直後に誕生する原始中性子星 は差動回転していると考えられるが、そういった星で磁気流体不安定性が発生 すれば、爆発のメカニズムに何らかの修正を加える可能性もある。そういった 理論的予測を明らかにするために、完全に一般相対論的磁気流体シミュレーショ ンを2005年度から実行している。ここで使っている数値プログラムは、例えば ブラックホール周りの降着円盤の磁気流体シミュレーションにももちろん適用 可能であるし、実行すべき問題は数多い。
最近の計算例: 数値相対論的磁気流体シミュレーションによる連星中性子星の合体とブラックホールの誕生
木内建太による計算例 (可視化:国立天文台4D2Uプロジェクト)
世界最高解像度の計算
γ線バーストの発生源の解明
γ線バーストとはγ線を主に放射する突発的な天体現象である。γ 線強度の時間変動がミリ秒程度と変化が大変速く, また発生するエネルギーの 総量は太陽が一生かけて生成する量にも匹敵する(そのため遠宇宙で発生して も観測できる). このように特異な高エネルギー現象なので, その発生源は強 重力天体, 具体的には, 質量が太陽の数倍程度のブラックホールと降着円盤か らなるもの, と推測されている. 同じ場所で2度は繰り返さないので, その発 生源は何らかの現象の結果形成され, やがてすぐに定常ブラックホールへと落 ち着く, と考えられる. その現象の候補とされているのが, 大質量星の重力崩 壊、連星中性子星の合体、中性子星・ブラックホールの合体などである. この ような仮説の正否を、シミュレーションにより具体的に示し、明らかにするこ とを目指している。
Final fate of 100 solar-mass: Contour curves in the meridional plane (By Y. Sekiguchi)
UN100-density
Final fate of a POPIII star: Contour curves in the meridional plane (By Y. Sekiguchi)
POPIII-density
Viscous hydrodynamics
One phenomenological way to take into account angular momentum transport and turbulent viscosity is to employ viscous hydrodynamics. By this, we explore the merger remnant of binary neutron stars and a torus surround the central compact objects.
evolution of differentially rotating system
evolution of differentially rotating system (wide)
evolution of massive torus surrounding a black hole
evolution of massive torus surrounding a black hole
高次元ブラックホール
最近、我々の時空の次元が5次元以上でもこれまでの観測や実験と矛盾しない 理論が提唱されており、日本でも盛んに研究されている。特に加速器実験でミ ニブラックホールが誕生する可能性が指摘されて以来、高次元ブラックホール の研究が進んできた。高次元ブラックホールで特に興味深い点は、4次元ブラッ クホールと定性的にも大きく異なる可能性があることである。しかし、重力理 論は非線型ゆえ、詳しい性質を解析的に調べることは難しい。そこで数値相対 論を用いたブラックホールの研究を、吉野裕高ら2009年より進めている。最近 の研究テーマは、高次元回転(カー)ブラックホールの安定性や、ブラックホー ルの高速2体衝突である。
Animations of 5D BH collosion: Lapse function in the orbital plane (By H. Okawa)
Collision to merger
Collision to scattering
スカラーテンソル理論における連星中性子星の合体
一般相対論はこれまでにその破れが全く見つかっていない非常に成功した古典 重力理論である。しかしながら、これまでの一般相対論の検証は、軌道半径の 大きな連星中性子星や太陽系内のような弱い重力場の精密測定によってのみ行 われている。重力波観測が始まると、中性子星やブラックホールの近傍のよう に強い重力場を伴う物体から放射される重力波を用いて一般相対論の検証が行 われるようになると期待され、その結果、より強い制限を課すことができるよ うになるであろう。運が良ければ、一般相対論の破れが検証されるかもしれな い。そこで、一般相対論とは異なる重力理論を用いて、期待される重力波源か らの重力波の放射過程の研究を進め、重力波の波形に重力理論の特徴が反映さ れるのかについても調べている。
Animations for binary neutron star mergers for a scalar-tensor theory of gravity that admits spontaneous scalarization (e.g, Shibata et al., PRD 89, 084005, 2014)
EOS=H4, B=9.0, varphi0=0.00005: Orbital plane
Evolution of scalar field
Evolution of density
EOS=APR4, B=8.4, varphi0=0.00001: Orbital plane
Evolution of scalar field
Evolution of density
連星中性子星の合体や重力崩壊の計算例(先駆的計算例)
Animations