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研究実績概要(2013年度)

本年度は、様々な重力理論における宇宙の非線形非摂動現象の類似点や相違点に関して、 メンバーそれぞれが可能な限り幅広く研究を進めた。以下はその主な成果である。

佐々木はゲージ固定をせずに宇宙背景輻射(CMB)解析用の2次摂動ボルツマン方程式を導いた。また重力的非極小結合する複数場インフレーションの非線形曲率揺らぎを調べ、異なる共形計量間での曲率揺らぎの関係を明確にした。さらに量子宇宙論におけるHartle-Hawkingの無境界境界条件の大問題であるインフレーションの起こりにくさが、有質量重力子理論では劇的に改善される可能性を示した。 佐々木と田中は、CMBの統計的非等方性に関するこれまでの議論の大きな見落としを指摘し、観測と整合的なモデルの条件を明らかにした。また、田中はインフレーション中の赤外発散問題で、曲率ゆらぎの議論を重力波モードのループ補正にまで拡張し、赤外発散がないことを示した。山口はインフレーション宇宙における質量の重い場の曲率揺らぎへの影響を明らかにした。辻川は様々な修正重力理論に基づく幅広いインフレーション模型に対する観測的制限をつけた。早田は非等方インフレーション模型を構成し、その揺らぎの相関関数と非ガウス性の評価に成功した。千葉は観測量は共形変換によらないことを明確に示した。高橋は超重力理論における観測に整合的なインフレーション模型を提唱した。向山はHorava-Lifshitz理論や有質量重力子理論を改良し、観測と整合的で安定な理論を構成した。白水はある種のスカラー場模型においては、正質量定理の成立は正準的モデルを意味することを示した。山本は銀河団を用いてカメレオン重力理論に強い制限が与えられることを示した。松原は非線形性を取入れた新手法で、大規模構造の3点関数やミンコフスキー汎関数に対する初期ゆらぎの影響を研究した。石原はKerrブラックホールの角運動量を観測的に推定するための現象を提案した。

以上の成果を踏まえて、12月に基礎物理学研究所において、修正重力理論に関する滞在型研究会を開催し、 本研究計画を総括しつつ、現状と将来の課題に関する議論を行った。 また、2月には基礎物理学研究所において、海外から共同研究者を招いて重力と宇宙論に関する小研究会を 開催し、国際的な分野の動向についての理解を深めた。さらにその直後に、 台湾・タイペイにおいて、アジア太平洋スクール・研究会を開催し、 インフレーション宇宙・修正重力理論・高次元ブラックホールの研究の最先端と今後の課題について議論を行った。

なお、本年度、宇宙背景輻射や宇宙の大規模構造などに関して、 新たな宇宙論的観測データが発表され、観測に対応した非線形揺らぎの定式化を 新たな視点で行う必要が発生したため、本研究計画の期間を2014年9月まで延長した。