量子ドット
近年、半導体微細加工技術はめざましく発展してきた。それと共に半導体素子や回路は小
さくなり続け、集積度は伸び続けてきた。そして、現在では量子効果を無視できない小さ
さにまで到達した。つまり、半導体素子のバルクとしての性質ではなく、ナノ構造として
の性質が顕著に現れる領域にまで到達した。例えば、素子の大きさが伝導バンドの電子の
波長に近づくと、量子効果として閉じ込めによる電子のエネルギーの離散化が起こる。し
たがって、素子の作製において量子効果を考慮しなければならなくなった。
これはポジティブに捉えると、量子効果を利用した素子を作製することができるようにな
ったことを意味する。このような系は巨視的な物理法則に従う系(マクロ系)と微視的な物理
法則に従う系(ミクロ系)との中間の大きさなので、「中くらい」を意味するギリシャ語の
"μεσον"(メソン)からメゾスコピック系と呼ばれている。メゾスコピック系に特有な現
象が生じるのは系が分子ではなく固体と見なせる程度に大きく、観測する現象の特徴的な
大きさよりも系が小さいときである。
メゾスコピック系を代表する素子のひとつである量子ドットはナノスケールの電子閉じ込
め構造(擬 0 次元系)であり、量子トンネル効果を用いてリードに接続することが出来る。ま
た、ゲート電極を取り付けることにより、ゲート電圧によって量子準位
を変化させることが出来る。さらに閉じ込めによる量子準位の離散化や
量子ドット内の電子間に働くCoulomb 相互作用により、様々な現
象が観測される。例えば、2 本のリードに量子ドットを接続した系においてゲート電圧を変化させると、電気伝導度がピーク構
造を持つ(クーロン振動)。
また、量子ドット内の電子数が奇数の場合、量子ドット内にはスピンが局在するため、1 次
元リードに磁性不純物が埋め込まれた系と等価になる。その結果、リードのフェルミの海
と量子ドット内のスピンとの一重項状態が実現され、近藤効果が生じる。この系では不純
物、つまり量子ドットのエネルギー準位やリード間のバイアス電圧などのパラメータを調
節しながら近藤効果について調べることが出来る。
つまり、メゾスコピック系では実験と比べながら、非常に理想的な系で量子多体現象につ
いて詳細に調べることができる。我々は、この系を用いて非平衡輸送現象について調べて
いる。