Boltzmann方程式などの輸送方程式は、非平衡現象の解明に大きな役割を 果たしてきた。久保公式などの線型応答理論と比べたとき、その明白な 利点は、非平衡系の時間発展を直接記述できることにある。しかし、1872年 に提出された元祖Boltzmann方程式では、希薄古典気体が扱えるのみである。 その後、特に1960年代以降の場の量子論を用いた研究により、輸送方程式の の適用範囲は大いに広がり、量子効果や強結合効果も取り込めるようになって きている。この講演では、この輸送方程式論の発展について報告する。 主な内容は下記の通りである。 (1) 松原グリーン関数を用いたKadanoff-Baymによる準古典輸送方程式 (2) Keldyshによる実時間摂動展開理論と準古典輸送方程式 (3) 量子効果を含んだ輸送方程式 (4) 非平衡系のエントロピーの表式 (5) 荷電粒子系の輸送方程式におけるゲージ不変性とHall効果 以上の発展により、非平衡系を微視的・統計力学的に扱うことに 原理的問題はなくなったと考えている。