生命は、蛋白質や核酸などから成るさまざまな分子機械が働くことによって生命機能を 構成している。そのなかでも私は、生体内でのエネルギー通貨である ATPを加水分解す ることによって運動機能を発生する分子モーターと呼ばれる蛋白質酵素(F1-ATPase, Myosin V)について、顕微鏡下で1分子の運動を直接観察することにより力生成や運動 機能制御のメカニズムを明らかにしてきた[1]。これらの知見をもとに、1分子の生体 分子モーターで行われている化学?力学エネルギー変換機構を、非平衡開放系条件下で 自己組織化されたシステムという観点から考察する。分子機械スケールでの普遍的な 数理モデルの構築を目指して、非平衡物理や非線形科学からのアドバイスを期待したい。 [1] Ariga et al. Nat. Struct. Mol. Biol. 14, 841-846 (2007)