4月 10(木) 16:00~
発表者
金賢得 (所属:京都大学 大学院理学研究科)

題目
生化学分子内の超高速excitonダイナミクス:光合成アンテナと二重らせん DNA
Ultrafast Exciton Dyanmics in Biomolecules: a Light Harvesting Antenna and a DNA duplex helix

概要
 
 近年の目覚ましいパルスレーザー技術の発展により、分子系の非平衡ダイナミクスが
サブps秒(?100 fs)のオーダーで観測できるようになった。最近では光合成アンテ
ナ系におけるfs秒パルスレーザー実験を通して、これまでの標準的な励起エネルギー
輸送理論であるフェルスター理論では説明できない新しいタイプの超高速輸送現象が
発見された。光合成リングアンテナはクロロフィルが強くカップルした分子凝集体で
ある。その電子励起は複数のクロロフィルにdelocalizeして起き、excitonと呼ばれ
ている。このexcitonの超高速な輸送がどのように起こっているかを理解すべく、我々
は最近その輸送方程式/時間発展式を導出した。さらに、そのexcitonの超高速輸送
の効果を、目覚しい進歩を遂げている非線形パルスレーザー実験での観測可能な物理
量として表現することに成功した。[1,2]
このような目覚ましいレーザー技術の発達にもかかわらず、重要な生体分子である二
重らせんDNAについては、最近になってやっとその時間分解スペクトルが測定され
始めた。これは二重らせんDNAの電子励起エネルギーが非常に高く(吸収波長のピー
クは約250 nm)、このような高周波数のパルスレーザーを開発することが困難であっ
たためである。このような経緯から、二重らせんDNAにおける超高速励起エネルギー
ダイナミクスを理論的に予言することは、紫外線によるDNA損傷の研究とも関連し
非常に重要である。我々はexciton描像を二重らせんDNAにも適用し、その初期励起過
程におけるダイナミクスを考察した。その結果、二重らせんDNA内では紫外線による
影響の「記憶」が超高速で消失され、しかもその過程で特定のチャンネルを通したex
citon輸送が行われていることが示唆された。[3]
[1] J. Chem. Phys. Vol.127 075101 (2007)
[2] Virtual Journal of Biological Physics Research Vol.14 Issue 4(2007)
[3] to be published in J. Chem. Phys. Vol.128 (2008)
      

場所
京都大学基礎物理学研究所 研究棟・講義室K206
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