2月 25(水) 16:30~
発表者
御手洗菜美子 (所属:九州大学)

題目
翻訳過程におけるリボソームの衝突と渋滞の効果

概要
 
メッセンジャーRNA(mRNA)に転写された情報のたんぱく質への翻訳は、
リボソームによって行われる。一つのアミノ酸は、mRNA上の塩基の3つの並び
(コドン)で表され、リボソームは、コドンを読み取りながら対応するアミノ酸
をつないでいく。この翻訳過程は複数のリボソームによって並列に行われるこ
と、リボソームがあるコドンを翻訳する速度は一般にコドンに依存する
ことが知られている。

共同研究者の一人は、以前、大腸菌を用い、天然のmRNA
にいくつかのコドンを挿入したmRNAの
翻訳にかかる時間を測定する実験を行った[1]。
この実験では、コドンあたりの翻訳レートが数種類のコドンについて
定量的に見積もられるとともに、遅いコドンを多く挿入した場合の、
リボソームの渋滞の発生も示唆された。

そこで本研究では、リボソーム同士の衝突や渋滞が
翻訳過程に果たす役割を理解するために、
コドンに対応した一次元格子上をリボソームが確率的に
移動していく交通流モデルを用いて、翻訳過程の解析を行った[2]。
モデルでは、mRNAが有限の時間内で分解される効果も考慮した。
我々は、このモデルから得られた結果を
実験結果に定量的にフィットすることにより、
翻訳頻度やコドンに依存した翻訳レートを決定し、
衝突や渋滞などの効果を見積もった。
これらの結果を元に、(i)入り口付近に遅いコドンが現れる頻度が高い
mRNAが天然に存在するが、そのようなコドンの並びは
大きな渋滞の発達翻訳を防ぐ効果があること、、
(ii)mRNAの有限時間での分解は、平均翻訳速度を上げること、、
など、衝突と渋滞が、生物の機能に対して持つ効果を議論した。

[1] M. A. Sorensen and S. Pedersen, J. Mol. Biol. 222, p265 (1991).
[2] N. Mitarai, K. Sneppen, and S. Pedersen, J. Mol. Biol. 382, p.236 (2008)

      

場所
京都大学 基礎物理学研究所 研究棟・講義室K206
地図 (Map)