ATLAS検出器とシミュレーション

                            1999年 原子核三者 夏の学校 高エネルギーパート 講演

                            神戸大学大学院    自然科学研究科
                            藏重 久弥
                  mail to :kurasige@phys.sci.kobe-u.ac.jp




 LHCは大型陽子陽子衝突型加速器(Large Hadron Collider)の略で、スイス、ジュネーブにある欧州素粒子物理学研究所CERNにおいて、TeVエネルギー領域での素粒子物理研究を目指し、2005年の稼働を予定して建設が進められている。

 LHCがめざす物理のなかで最も重要なのは、ヒッグス粒子の発見をはじめとする電弱対称性の破れ機構の実験的な解明である。標準模型は今までに実験的に調べられた様々な素粒子相互作用を破綻なく説明することが知られている。だが、その標準模型のキーとなっているヒッグス粒子は未だ発見されていない。電弱対称性の破れ機構の実験的な解明は、標準理論を越えより究極の素粒子理論を作り上げていくためになされなければならない必要条件である。

 ATLAS検出器は、LHCの衝突点に設置される測定器の一つであり、ヒッグス粒子の発見を目指しているほか、超対称性粒子や現在知られていない全く新しい相互作用などの発見も期待される。ATLAS測定器は、LHCの高ルミノシティ運転時の高い粒子頻度のもとでも、電子・γ線等の電磁シャワー、ジェットによるハドロンシャワー、ミューオンなど多くのシグナルをバランス良く取り出し、精度の良い測定を行なうことを目的とした汎用測定器である。その規模は、半径約12m、長さ約44mの円筒形で、全重量は約7000トンにも及ぶ。ATLAS測定器は主に次のものから構成されている

なかでもミューオンは、 等の重要な物理過程にかかわっている事。及びハドロンコライダーという厳しい実験環境下の中でもの、ミューオンの信号はきれいにとりだせることからその重要性は高い。ATLASミューオン・スペクトロメータでは、内部飛跡検出器とは独立に空芯の超伝導トロイド電磁石を用いてミューオンの運動量精密測定を行なっている。

この講義では、ヒッグス粒子の発見を中心とするLHCでの物理とATLAS検出器の概要を説明する。またATLASでは、検出器シミュレーションにはオブジェクト指向技術を用いて開発されたGeant4を採用することになっており、これについても詳しく説明する