Subject: [sg-l 4614] 素粒子メダル選考報告(再再送)
Date: 2008年9月3日 14:50:59:JST

素粒子論グループの皆様、

先日お送りした素粒子メダル選考報告書修正版にさらに誤植が
見つかりましたので, 修正の上再送致します。

素粒子論委員会 素粒子メダル担当

酒井 忠勝

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2008年度第8回素粒子メダル及び素粒子メダル功労賞 選考報告書

 2008年度の素粒子メダル3件4名及び同功労賞1件1名を以下のように選考
しましたので、ご報告します。

			2008年度素粒子メダル選考委員会                          
				青木健一 宇川彰*  風間洋一
				川合光  山脇幸一 米谷民明
                                           			   (* 委員長)

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<2008年度素粒子メダル>
○荒船 次郎氏
「非可換ゲージ理論におけるモノポールのトポロジー的性質の研究」
○亀淵 迪氏
「くりこみ可能性に基づく相互作用の分類」
○吉川圭二氏,山崎眞見氏
「弦理論におけるT デュアリティの先駆的研究」

<2008年度素粒子メダル功労賞>
○山口嘉夫氏
「素粒子論グループ及び我が国の素粒子物理学の国際的な発展への顕著な貢献」

<選考経緯>
 メールで選考手続きの確認を行った後、各委員から素粒子メダル及び素粒子メダル
功労賞について文書で推薦を求め、委員間で回覧した後、選考委員会を開催して協議
した。その結果、出席者の全員一致で、素粒子メダル3件4名及び素粒子メダル功労賞
1件1名が決まった。海外出張中の山脇幸一氏の意見は参考意見とした。
 なお、素粒子メダルの件数は、「素粒子メダルの規則」によれば毎年1〜2件となって
いるが、本年度の授賞3件については2件以下に絞り込むことは困難であると委員会の
出席者全員一致で判断した。

<その他>
 選考委員会での議論に基づき、以下の2点を素粒子論委員会に申し送りすることとした。
1. 素粒子メダルの件数について、今年度のように2件以下に絞り込むことが困難な状況
は来年度以降もありうることから、素粒子メダルの規則(1−B)賞の件数 素粒子メダル:
「毎年1〜2」を「毎年2件程度」と修正することを素粒子論委員会に提案する。

2. 選考基準や選考手続に関する過去の経緯が選考委員会に充分に伝わっていないため
に、選考の議論において誤解や混乱が生じる場合がある。これを避けるために、選考委員
会委員長から、次期委員長に、当該委員会における選考の状況について、注意点を申し送
りをすることとする。

<受賞理由>
<素粒子メダル>
○ 荒船 次郎氏 
「非可換ゲージ理論におけるモノポールのトポロジー的性質の研究」 
“Topology of Higgs fields”, 
J. Arafune, P. G. O. Freund, and C. G. Goebel, 
Journal of Mathematical Physics, 16 (1975) 433.

 ある種の自発的対称性の破れのあるゲージ理論が3次元のソリトン解をもち、それが一
種の磁気単極とみなせることが、1974年に‘t Hooft と Polyakov により独立に示された。
荒船氏はその解のトポロジー的な性質を調べ、モノポールチャージの保存則が、Neother 
的な作用の対称性から来るものではなく、3次元空間における場の配位のトポロジー的な
性質に起因することを明確に示した。また、 特異的なゲージ変換によってモノポール解が 
Dirac のモノポールにつながることを示し、モノポール解の性質を明快に表した。その後の
ゲージ理論の発展により、モノポールに限らずインスタントンなども含めて、ゲージ場のダイ
ナミクスにとって場の配位のトポロジーが本質的に重要であることが認識されるようになっ
たが、荒船氏のこの研究はそのさきがけとなるものであり、ゲージ理論における基本的な
文献となっている。

○ 亀淵 迪氏
「くりこみ可能性に基づく相互作用の分類」
“On the Structure of the Interaction of the Elementary Particles I  
− The Renormalizability of the Interactions −”, 
S. Sakata, H. Umezawa, and S. Kamefuchi, 
Prog. Theor. Phys. 7 (1952) 377

 1949年の量子電気力学におけるくりこみ理論の完成後、場の理論におけるくりこみ
可能性は、個々の相互作用のタイプに依って論じられていた。その直後の時期に、亀淵
氏は梅沢氏と共に、任意のスピンの場合を含めた一般の相互作用に対するくりこみ可能
性の条件を分析し、摂動の一般次数において、無限大を吸収するくりこみ項が有限の種
類に留まるという意味でのくりこみ可能性は、結合定数の次元をηとするとき、η≦0で
あることを導いた。さらに、この条件がHeisenbergによる相互作用の高エネルギーでの
振舞いに基づく第一種(η=0)及び第二種(η<0)への分類に対応していることを指摘した。
 場の理論とくりこみは素粒子現象を理解する上での基本的な考え方へと発展していが
亀淵氏の見出した条件は、現在では場の理論の常識の一部となった基本的な性質である。
くりこみ可能性の意味が充分に解明されていない当時、単なる計算の処方箋としてではな
く、場の理論の一般的な適用限界へ向けた考察を進め、普遍的な有効性を持つ性質を見
出した優れた研究である。

○ 吉川圭二氏,山崎眞見氏
「弦理論におけるT デュアリティの先駆的研究」
“Casimir Effects in Superstring Theories”, 
K. Kikkawa and M. Yamasaki, 
Phys. Lett. 149B (1984)357

時空のある方向をトーラス上にコンパクト化した場合の閉じた弦に関する研究は70年
代から開始され,80年代に入ってその特徴的性質が明らかにされた.特に1次元トーラ
ス(円)の半径R の変換R → R’ ≡ α’/R のもとでの対称性およびその多次元への拡張
は,Tデュアリティとして知られ,弦理論において重要な役割を果たしている.たとえば,
最近の弦理論の展開に不可欠なDブレーンは,Tデュアリティの開弦への応用により発見
されたものである.この変換は,吉川・山崎両氏の論文に先行してGreen-Schwarz-Brink
(1982 年)の1ループ振幅の研究においてすでに導入されていたが,その物理的意義につ
いては議論されていない.吉川・山崎両氏の論文では,コンパクト化の力学的な理解を進
めるという動機に導かれ,弦の生成・消滅に起因するCasimir 効果という物理的描像に
基づき,変換R → R’ のもとで有効ポテンシャルが不変であることをあからさまに指摘
した.これにより,弦理論の対称性としてのT デュアリティー変換の物理的意義が明確に
なった.この仕事をきっかけとして,T デュアリティーの重要性が広く認識されるように
なったのであり,吉川・山崎両氏の仕事の先駆的意義は大きい.


<素粒子メダル功労賞>
○山口嘉夫氏
「素粒子論グループ及び我が国の素粒子物理学の国際的な発展への顕著な貢献」

 山口嘉夫氏は、素粒子論グループの創設期から一貫して素粒子論グループの活動に
携わって来られた。その活動は幅広く、文字通り枚挙のいとまが無い。素粒子論グルー
プの創成期には、素粒子から、原子核、宇宙線、さらには天体物理学まで、分野の境目
を意識しない幅広い活動で活躍された。その後、創設間もないCERNにおける滞在の間
には実験の目利きの術と国際的な研究者仲間との交遊を育み、それらを糧として、帰国
後の1960年代には、素粒子研究所(後の高エネルギー物理学研究所、現高エネルギー
加速器研究機構)の設立計画の実現に奔走され、その設立後は運営に努力された。
また東京大学原子核研究所を中心とした素粒子・原子核・宇宙線分野の活動には理論
と実験を問わず深く関与された。国際交流が現在よりもはるかに困難であった時代に、
1973年にはINS International Symposia国際会議シリーズを開始し、また1978年の
International Conference on High Energy Physics, 1985年のInternational Symposium
on Lepton and PhotonInteractions at High Energiesの日本開催を実現する等、国際的
な交流の実現と拡大に大きな努力を払われた。さらに、日本物理学会会長、ICFA委員長
(1987年−1989年)、IUPAP会長(1993年−1996年)等の歴任を通じて、我が国の素粒
子物理学、原子核物理学、宇宙線物理学、ひいては物理学全体の国際化と国際舞台
における存在の向上、さらにはAssociation of Asia-Pacific Physical Societiesの創設
(1989年)等により、アジアの物理学界の発展にも力を尽くされた。
 山口嘉夫氏は、物理学に対する真摯でひたむきな姿勢と、率直な物言いで、国内外を
問わず、多くの研究者に多大な影響と勇気を与え、素粒子論グループに集まる我が国
の素粒子研究者達と素粒子物理学が、国際的に大きく飛躍する原動力の一人となった。

以上
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