Date: Fri, 6 Aug 2010 23:00:55 +0900
Subject: [sg-l 5869] 第10回素粒子メダル

素粒子論グループの皆様、

素粒子メダル選考委員会委員長の林青司氏より、2010年度
第10回素粒子メダル及び素粒子メダル功労賞選考報告書が送
られてきましたので、転送致します。

素粒子論委員会 素粒子メダル担当
諸井健夫

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2010年度第10回素粒子メダル及び素粒子メダル功労賞 選考報告書

2010年度の素粒子メダル1件1名、素粒子メダル功労賞1件1名を以下の
ように選考しましたので、ご報告します。

2010年度素粒子メダル選考委員会

岡田安弘 九後汰一郎 坂井典佑
畑 浩之 日笠健一  林 青司*
          (* 委員長)

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<2010年度第10回素粒子メダル>

○中西 襄 氏
「QEDの中西-Lautrup 形式と不定計量の場の理論の研究」

<2010年度第10回素粒子メダル功労賞>
○坂東昌子 氏
「素粒子論グループ・物理学界の活性化、特に若手および女性研究者育成
への貢献」

<選考経緯>

 本年度は、素粒子メダル2件2名、素粒子メダル功労賞1件1名の候補者
推薦があった。尚、これには本年度より実施されることになった委員会推薦
によるものも含まれる。素粒子論委員会の諸井健夫委員よりこの報告を受け
て選考委員会では、先ず、メールで選考手続きの確認を行った後、各委員か
ら素粒子メダル、素粒子メダル功労賞について文書で推薦の意見書を求め、
委員間で回覧した後、選考委員会を開催して協議した。その結果、出席者の
全員一致で、素粒子メダル1件1名、素粒子メダル功労賞1件1名を決めた。

<その他>
 選考委員会での議論に基づき、以下の点を素粒子論委員会に申し送りする
こととした。
・選考委員会は、次のように規則改定を行うことを素粒子論委員会に提案す
る。
「必要があると選考委員会が判断した場合に、若干名の外部委員を加えるこ
とが出来る。ただし、外部委員は受賞者の最終決定には加わらないものとす
る。」

<授賞理由>

<素粒子メダル>

○中西 襄 氏
「QEDの中西-Lautrup 形式と不定計量の場の理論の研究」

1. N. Nakanishi,
"Covariant Quantization of the Electromagnetic Field in the Landau Gauge"
Prog. Theor. Phys. 35 (1966) 1111.
2. N. Nakanishi,
"Quantum Electrodynamics in the General Covariant Gauge"
Prog. Theor. Phys. 38 (1966) 881.
3. N. Nakanishi,
"Indefinite Metric Quantum Field Theory"
Prog. Theor. Phys. Suppl. No.51 (1972) 1.

今日の標準理論は、自然界の基本的相互作用がすべてゲージ理論であることを
明らかにしたが、ゲージ理論の明白にローレンツ共変な形での演算子定式化に
は、不定計量の場の理論の枠組みが必要とされる。
中西襄氏は、1966年に発表した二論文で、電磁場の共変的量子論として知られ
ていたFeynmanゲージに於けるGupta-Bleuler形式を、Landauゲージついで一
般の共変αゲージに拡張し、明確な作用原理に基づいた電磁場の共変演算子形
式の定式化を試みた。この仕事は、1972年にPTP Supplementとして刊行され
た不定計量場の理論の総合報告においてさらに完全な形に整備され、今日中西
-Lautrup形式と呼ばれる、QEDの明白に共変な正準演算子形式が完成した。こ
の定式化は、中西-Lautrup場の導入、物理的状態を選ぶ補助条件、負計量粒子
やdipole ghostの概念、ゼロノルム状態の差を無視する商空間としての物理的
Hilbert空間の定義、など不定計量の場の理論の枠組みの全体像を初めて明確に
提示したものである。
中西氏の与えた不定計量の場の理論の枠組みは、その後BRS対称性に基づく
Yang-Mills場の共変な演算子型式に適用され、それまで径路積分のみによる
定式化しか知られていなかった非可換ゲージ理論の場の理論の理解が一挙に
深まった。その後は、共形場の理論、弦の理論、などあらゆる所で、BRS(T)
formalism という名前でこの演算子形式が使われている。これらの基礎となる
不定計量場の理論を用意し、今日へと続く発展を導いた点で、中西氏の業績は
素粒子メダルを受賞するにふさわしいものである。

<素粒子メダル功労賞>

○坂東 昌子 氏
「素粒子論グループ・物理学界の活性化、特に若手および女性研究者育成
への貢献」

坂東氏は半世紀近くにもわたって素粒子論グループの活動に携わり、特に
若手研究者の支援、女性研究者の援助の活動を早い時期から精力的に展開
して来られた。現在ではこうした活動は、物理学界、ひいては社会全体の大
きな潮流になって来ているが、坂東氏はコミュニティーにおける草分け的な
存在で、その私心のない献身的な活動は多くの研究者に影響を与えて来た。
若手支援に関する比較的最近の具体的な活動としては、2006年度から
2007年度、日本物理学会副会長、会長の職務を果たされながら、ポスドク問
題に物理学会として積極的に取り組まれた。特に文科省のキャリア支援事業と
して、2007年から3年間、物理学会にキャリア支援センターを設立し初代セン
ター長を務められた。また、引き続き佐藤文隆氏と共に「NPO法人知的人材ネ
ットワークあいんしゅたいん」を設立し若手支援のための活動を開始された。
女性研究者の支援に関しては、1962年の自宅を提供しての共同保育の運営を
初めとして様々な活動を展開されて来た。特に、猿橋勝子氏(女性初の学術会議
会員)の呼び掛けに応じて全国的な女性研究者の実態調査を行い、科研費「女性
研究者のライフサイクル調査」として公表し、学術会議の世論を喚起された。
また、物理学会の初代男女共同参画推進委員会の委員長を務められ、これを広
げて、男女共同参画学協会連絡会を、物理・応用物理・化学会の呼びかけで設
立し委員長を務められた。
更に、1995年から毎年続けられている Summer Institute に関しても、その
創設、企画、立案の過程から主導的な役割を果たされて来た。このように、坂
東氏は素粒子論グループ・物理学界の活性化、特に若手および女性研究者育成
への貢献により多くの研究者に多大な影響と勇気を与えて来られた。ここに坂
東昌子氏に2010年度素粒子メダル功労賞をお贈りしその功績をたたえたい。

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