Date: Tue, 18 Jul 2023 16:25 +0900 From: Kyohei MUKAIDA Subject: [Sg-l:7683] 第23回素粒子メダル選考結果報告 素粒子論グループの皆様、 素粒子メダル選考委員会委員長の兼村晋哉氏より、 2023年度第23回素粒子メダルの選考結果が報告されましたので転送いたします。 授賞式は9/18 (月) に物理学会の素粒子論懇談会にて現地の東北大学で行われます。 よろしくお願いいたします。 素粒子論委員会 素粒子メダル担当 向田享平 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 素粒子メダル、素粒子メダル功労賞 選考結果報告 選考委員会 兼村 晋哉(委員長)、棚橋 誠治(副委員長)、磯 暁、高柳 匡、 村山 斉、松尾 泰 「選考経過」 本年度は、最初の募集では応募が無かったため、再募集を行った。 その結果、素粒子メダルに対して5件の応募(内自選1件)があった。 素粒子メダル功労賞は応募が無かった。選考の前提となる規約、候補者の資格等について確認した後、 応募論文および関連論文を精査し、委員各自が評価レポートを作成した。 それを持ち寄ってオンラインの審議を重ねた結果、選考委員会は、推薦された米谷民明氏の 論文, "Connection of dual models to electrodynamics and gravidynamics" T. Yoneya, Prog. Theor. Phys. 574), が素粒子メダルに相応しいという判断に至った。 今回受賞に至らなかった推薦論文の中には、その秀でたアイデアと物理的意義、 及びコミュニティへの大きな波及効果が認められるものがあった。しかしながら、 今回賞を授与するべきかどうかについては惜しくも統一的な見解を得られなかった。 論文の重要性については委員の意見が一致しているので、これらの論文は審査を来年度に持ち越すことになった。 また、今回の募集には、若手研究者が1名自選で応募した。残念ながら今回は受賞には至らなかったが、 選考委員会はその論文の新規性については興味深く捉えており、自選による応募を決意した意欲を高く評価している。 <素粒子メダル> ○ 米谷民明氏 「弦理論が重力を含むことの発見」 [受賞理由] T. Yoneya, "Connection of dual models to electrodynamics and gravidynamics" Prog. Theor. Phys. 51:1907-1920 (1974). T. Yoneya, “Quantum gravity and the zero slope limit of the generalized Virasoro model” Lett. Nuovo Cim. 8 (1973) 951-955. 米谷氏はこれらの論文においてハドロンの理論として考案された弦理論が重力を記述できることを初めて指摘した。 具体的には、閉弦を記述するVirasoro-Shapiro模型の散乱振幅が低エネルギー極限で一般相対性理論の散乱振幅と一致することを明らかにした。 これは弦理論が量子重力の理論として考えられ得る発端となった革命的で重要な発見であり、 80年代以降の素粒子物理学の発展の基礎となった先駆的な業績である。 競合する研究としてはScherk-Schwarz(Nucl. Phys. B118 (1974) 118-144. (1974年5月14日投稿))に同様の指摘があるが、 この論文で米谷氏のLett. Nuovo Cim.誌の論文が引用されており、また米谷氏のProg. Theor. Phys.誌の論文も投稿日は、 半年以上早い1973年10月13日である。米谷氏は本業績に対して若手に贈られる西宮湯川賞を1986年に受賞している。 しかし、論文発表から50年を経て、今日までの長きにわたる素粒子論の発展の歴史において、 この論文が重要な役割を果たしてきた点は極めて高く評価できる。 以上より、選考委員会は本論文を素粒子メダルにふさわしい業績であると判断した。