2009年日本物理学会理論核物理領域:若手奨励賞(第10回核理論新人論文賞) 授賞者(所属は当時のもの) ----- 船木 靖郎 氏 (理化学研究所仁科加速器研究センター) 「αボーズ凝縮描像に基づく12C原子核第二0+励起状態微視的波動関数の分析」 対象論文: タイトル: Analysis of previous microscopic calculations for the second 0+ state in 12C in terms of 3-alpha particle Bose-condensed state 著者名: Y. Funaki, A. Tohsaki, H. Horiuchi, P. Schuck, and G. Roepke 発行雑誌: Physical Review C 67 (2003) 051306. [選出理由] 本論文は、恒星中の元素合成において重要な役割を果たしている12C核の励起 共鳴状態(ホイル状態)を、"アルファ凝縮型"状態という新解釈に基づく精緻な 数値計算によって研究し、その解釈を確固たるものとしたものである。この 状態は、過去の微視的クラスター模型計算では多数のスレーター行列式の重ね 合わせという複雑な状態として理解されていたが、3つのアルファ粒子が 空間的に広がった1つのガウス型波動関数を占有する希ボーズ気体的状態として シンプルに記述できることを明らかにした。この論文の後に関連する研究が 国内外で多数発表されており、また理論的研究のみならず、同種の状態の探索 実験が他の原子核を対象に行われており、大きな流れを生み出した論文として 高く評価できる。 ----- 八田 佳孝 氏 (筑波大学数理物質科学研究科物理学専攻) 「高エネルギーQCD反応におけるダイポール散乱振幅の因子化の研究」 対象論文: タイトル: Correlation of small-x gluons in impact parameter space 著者名: Y. Hatta and A. H. Mueller 発行雑誌: Nuclear Physics A789 (2007) 285-297. [選出理由] 高エネルギーQCD反応では、ハドロン内のグルーオンが主要な役割を果たす。 なかでも、反応のユニタリー性を保証する機構としてのグルーオン飽和現象に ついては、近年大きく研究が進展している。本論文では、グルーオン飽和の 効果を取り入れたBalitsky-Kovchegov方程式の基礎となる多重散乱振幅の 因子化の是非が、高エネルギーQCD反応に関するダイポール模型を用いて考察 されており、二粒子ダイポール分布関数を厳密に評価することで因子化が 大きく破れる場合がある事が示されている。この結果は、高エネルギーでの グルーオン分布が、従来考えられていたものよりも豊かな構造を持つことを あらわに示したものであり、今後の研究の出発点を与えるものとして 高く評価できる。 ----- 受賞者の方々には、来年春の学会年会において若手奨励賞受賞記念講演を 行なっていただく予定です。 なお、2007年より、核理論新人論文賞は理論核物理領域の日本物理学会 若手奨励賞に移行しています。 (核理論委員長 土岐 博、担当幹事 大西 明)
核理論委員会(2008年10月29日、ntj-l/0810011)