2010年日本物理学会理論核物理領域:若手奨励賞(第11回核理論新人論文賞) 授賞者(所属は当時のもの) ----- 池田 陽一 (東京大学/理化学研究所) 「3体精密計算に基づくストレンジダイバリオン共鳴の研究」 対象論文: (1) タイトル:Strange dibaryon resonance in the Kbar NN - pi YN system, 著者: Y. Ikeda and T. Sato 掲載誌:Phys. Rev. C 76 (2007) 035203 (2) タイトル:Resonance energy of the Kbar NN - pi YN system 著者: Y. Ikeda and T. Sato 掲載誌:Phys. Rev. C 79 (2009) 035201 [選出理由] 本論文は、最近新しいエキゾティックな原子核として注目を集めている Kbar-原子核の中で最も基本的な3体系、ストレンジ・ダイバリオン共鳴 (Kbar-N-N)のエネルギーと崩壊幅を、ファデーエフ方程式を用いた3体計算 に基づいて予言した。著者はKbar-N-Nおよびpi-Sigma-N, pi-Lambda-N系が結合 したチャネル結合ファデーフ方程式を世界に先駆けて適用した。現在までに 知られているメソンーバリオン相互作用の情報を取り入れたパラメータによる 計算の結果、Kbar-N-N閾値から測って45-80MeV下に、崩壊幅45-75MeVの ストレンジ・ダイバリオンが存在しうることを示した。さらにこれまでの 理論計算の予言がエネルギー、幅ともにばらばらの値であったのは、 pi-Sigma(Lambda)-Nのチャネル結合によるエネルギー・運動量依存性の取り 入れ方が異なっていたためであり、3体のダイナミクスを完全に取り入れた 著者らのチャネル結合計算によって初めて信頼できる予言が可能であることを 指摘した。これらの論文において、池田氏らがKbar-原子核の存在とその定量的 な評価に果たした役割は非常に大きく、今後の発展の基礎となる研究として 世界的な評価を得ている。 ----- 吉田 賢市(理化学研究所) 対象論文 タイトル:Deformed quasiparticle-random-phase approximation for neutron-rich nuclei using the Skyrme energy density functional 著者名:K. Yoshida and N. Van Giai 発行雑誌:Phys. Rev. C78 (2008) 064316. [選出理由] 原子核の励起状態を記述する理論として、乱雑位相近似及びその対相関を 取り入れた拡張である準粒子乱雑位相近似があげられる。この理論を弱く 束縛された中性子過剰核に適用するにあたり、対相関、核の変形、連続状 態への励起の効果をすべて取り入れた計算を行うことが本質的に重要とな る。本論文では、Skyrme 力を用いた自己無撞着アプローチのもとで、準 粒子乱雑位相近似を変形した安定核及び中性子過剰核に適用した。自己無 撞着性を達成することにより、軸対称な2次元変形核のゼロ・モードの議 論が可能になり、ゼロ・モード解を用いて変形核の慣性能率の計算が行え るようになった。このアプローチにより、34Mg, 36Mg 核に関してスペク トルの再現に成功した。本論文は、変形した中性子過剰核における集団モ ードの発現機構を理解する上で、今後の関連した研究に大きく貢献するこ とが期待される。また、海外の研究者との競争の中、計算コードの開発を 世界に先駆けて達成した意義は大きい。 ----- 受賞者の方々には、2010年3月の学会年会において若手奨励賞受賞記念講演を 行なっていただく予定です。 (核理論委員長 大塚孝治、担当幹事 中務 孝)
核理論委員会(2009年11月2日、ntj-l/2140)