2012年日本物理学会理論核物理領域:若手奨励賞(第13回核理論新人論文賞) 授賞者(所属は当時のもの)

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日野原 伸生(理化学研究所仁科加速器研究センター)
  「局所準粒子RPA近似による慣性関数を用いた大振幅変形ダイナミクス
  の微視的記述」

対象論文:
タイトル:Microscopic description of large-amplitude shape-mixing 
         dynamics with inertial functions derived in local quasiparticle 
         random-phase approximation,
著者: Nobuo Hinohara, Koichi Sato, Takashi Nakatsukasa, Masayuki Matsuo
       and Kenichi Matsuyanagi, 
掲載誌:Phys. Rev. C 82, 064313 (2010).

[選出理由]
原子核の四重極変形と回転に伴う集団運動を扱う模型として、5次元Bohr模型が
よく知られるが、近年、平均場理論に基づいてBohr模型のパラメータを決定し、
低励起スペクトルを解析するアプローチが欧米を中心に盛んである。しかしなが
ら、静的な平均場理論に基づいているため慣性質量に問題があるとの指摘もあり、
実験を再現するために、計算値を現象論的に増加させるなどの対応が取られている。
受賞論文では、断熱的自己無撞着集団座標法に基づいて、Bohr模型のパラメータを
微視的に導出する実用的な方法として拘束平均場+局所乱雑位相近似法 (CHFB+LQRPA法)
を開発した。その過程で、集団座標に共役な運動量を理論に自己無撞着に取り込むことで、
これまで手つかずだった時間反転に対して符号を変える(time-odd)平均場の効果が取り
込まれた。それによって、上記の5次元模型を導出する基本理論が確立されたと言える。
模式的ではあるが微視的な核子系ハミルトニアンから出発して、prolate-oblate 変形
の共存が示唆されているSe原子核の実験データを再現した。このように、集団質量に
対するtime-odd項からの寄与、さらにガンマ変形(非軸対称変形)の自由度の量子的
ゆらぎによる変形の混合が重要な役割を果たしていることを明らかにした。本論文で
開発された理論手法は、現代的な時間依存密度汎関数理論へ応用可能であり、高い
発展性が期待される。変形混合を含む大振幅集団運動の解明に新たな展開をもたらす
成果として大きな意義をもつ研究であり、若手奨励賞に相応しい内容である。

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Philipp Gubler(東京工業大学、原子核理論研究室)
  「最大エントロピー法に基づくQCD和則の解析」

対象論文:
(1) タイトル:A Bayesian Approach to QCD Sum Rules, 
    著者: Philipp Gubler and Makoto Oka, 
    掲載誌:Prog. Theor. Phys. 124, 995 (2010).
(2) タイトル:Charmonium spectra at finite temperature from 
             QCD sum rules with the maximum entropy method, 
    著者: Philipp Gubler, Kenji Morita and Makoto Oka, 
    掲載誌:Phys. Rev. Lett. 107, 092003 (2011).

[選出理由]
従来のQCD和則では、スぺクトル関数に対して、極+連続状態という簡単化された仮定を置いて、
ハドロンの質量などを計算するしかなかった。この仮定は、幅の広い共鳴状態や、有限温度媒質中の
ハドロンについては正当化できないことから、QCD和則の計算結果に大きな不定性を生み出していた。
受賞者の論文[1]では、スペクトル関数についてより制限の少ない最大エントロピー法(MEM)を用いる
ことで、QCD和則におけるこの困難を回避することが可能かを詳細に検討し、演算子積展開が情報を
失う低エネルギー部分に関して、それを正しく補完するようなMEMの初期設定を選択することで、ベク
トル中間子の質量に関して、10%程度の誤差で信頼のおける結果が得られることを示した。さらに、
論文[2]では、有限温度のチャーモニュームに関するQCD和則にこの方法を適用し、グルーオン凝縮の
臨界点付近での温度変化とチャーモニュームピークの消失が強く相関していることを従来に無い信頼性
で示した。QCD和則における新しい解析方法を開発し、QCD和則の適用範囲大きく拡げた意義は高く、
若手奨励賞に相応しい論文である。

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受賞者の方々には、2012年3月の学会年会において若手奨励賞受賞記念講演を
行なっていただく予定です。

(核理論委員長 矢花一浩、担当幹事 八尋正信)


 核理論委員会(2011年11月2日、ml-np:06072)