Subject: [sg-l 3604] 2006年度素粒子メダル奨励賞選考結果
Date: 2006年11月22日 18:22:57:JST

素粒子論グループの皆様、

素粒子メダル奨励賞選考委員会より、
2006年度(第1回)素粒子メダル奨励賞の選考結果報告書を
いただきましたのでご報告いたします。

尚、春の学会(2007年3月首都大学東京)における
素粒子論懇談会で授賞式を行います。

素粒子論委員会 素粒子メダル奨励賞担当
小林達夫、浅野雅子


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第1回(2006年度)素粒子メダル奨励賞選考結果報告書:

第1回素粒子メダル奨励賞の受賞者が以下のように決まりましたので
報告いたします。

              2006年度素粒子メダル奨励賞選考委員会
                糸山浩(副委員長)、北澤良久、坂井典佑、
                三田一郎、曹 基哲、藤川和男(委員長)


受賞者氏名:

1. Akikazu Hashimoto・橋本幸士(はしもとこうじ)
“Monopoles and dyons in non-commutative geometry”
Journal of High Energy Physics 11 (1999) 005.

2. 岸本功(きしもといさお)・高橋智彦(たかはしともひこ)
“Open string field theory around universal solutions”
Progress of Theoretical Physics 108 (2002) 591.

ただし、A. Hashimoto氏は素粒子論グループのメンバーでないため、計3名の
受賞になります。
 今回は総計5件の応募があり、5件全てが自薦であり若い人たちのこの賞に
対する期待が強く感じられるものでした。選考過程としては、提出された書類
(および、今回に限り特に要求した追加資料)に基づき、まず全委員が5件の
全ての論文に対する評価を行い、その結果を集計しました。集計の結果に基づ
いてさらに意見の交換を行い、今回は最初でありまた応募件数が5件であるこ
とも考慮して、上記の2件を素粒子論委員会に推薦することに全委員一致で決
定しました。これらの2件はいずれも著者たちの個性の出た力作であるという
評価を得ました。
 選ばれた2件の論文に対する受賞理由は以下の通りです。

1. Akikazu Hashimoto and Koji Hashimoto
“Monopoles and dyons in non-commutative geometry”
Journal of High Energy Physics 11 (1999) 005.

 超弦理論でNS-NSセクターの2形式場Bが背景にあると,D3ブレーン
上の低エネルギー有効理論は非可換時空上超対称非アーベルゲージ理論となる
ことが知られている。本論文は,この事実を用いて非可換空間上の磁気単極子
やダイオンを研究したものである。本研究が行われた時期には,NS-NS2形式
場Bが背景場として存在することによって空間が非可換空間になることが明ら
かになってきていた。さらに,さまざまなDブレーンの配位が低エネルギー有
効理論でのソリトンとして理解できることも明らかになりつつあった。これら
ふたつの観点を統合して,非可換空間上のソリトンの性質をブレーン構成から
理解しようとすることは自然なアイデアである。
 本論文は非可換モノポールやダイオンが存在することを示し,非可換空間上
のソリトン研究に大きく寄与した。また,その結果,Dブレーンの理解を進め
ることにも役立った。


2. Isao Kishimoto and Tomohiko Takahashi
“Open string field theory around universal solutions”
Progress of Theoretical Physics 108 (2002) 591.

岸本氏と高橋氏の仕事は、フェルミ粒子を含まないボソン的な開弦に対する
E.Wittenによる弦の場の理論(Nucl.Phys.B268(1986)253)において、高橋・谷本
の論文(JHEP0203(2002)033)で構成された非自明な解析解のまわりのBRSTコ
ホモロジーすなわち物理的な状態の数え上げを議論したものである。その結果、
そのコホモロジーはゴースト数1以外の部分に移り、ゴースト数1のゲージ固
定しない開弦の場の理論の空間においては、この新しいBRST演算子のコホモロ
ジーは自明(trivial)であることが結論された。この結果は、この解のまわりで
は開弦の物理的な励起が存在しないことを意味している。すなわち、この解は
摂動論的な分析ではタキオンを含み不安定なD25ブレーンが非摂動論的な効果
で消滅した結果として現れる矛盾しない真空を表す解であることの証拠を与え
ている。当時Wittenの開弦の場の理論を用いて、D25ブレーンのテンションと
ポテンシャルの高さ等に関するA.Sen の予想( Int.J.Mod.Phys.A14
 (1999)4061)を証明しようとする試みがレベル切断法を用いて数値的になされ
ていたが、その一部を解析的に証明したのは本論文が最初であり、一般に特異
性を含むVacuum  String Field Theory等の構成を仮定せずに弦の場の理論の
非摂動論的解析が可能であることを示した論文としても意義がある。
 最近Schnablら(hep-th/0606142)により別の解析解を用いてSenの予想が
証明されたが、本論文はそれに数年先行するものであり、先駆的な業績として
高く評価されている。著者たちは、数年にわたり一貫して主として弦の場の理
論の観点から弦理論の研究を行っており、その研究態度も評価される。


[付記]:
今回の選考の過程で明らかになった今後の素粒子メダル奨励賞の選考に関する
提案・問題点等を簡単に記しておきます。
1. 若い人たちの共同研究がごく普通になっている現状においては、同じ年
度あるいは複数の年度に渡って一人の研究者が関係した複数個の論文が候補に
あがることは大いに考えられるが、一般に重複受賞(特定の研究者の複数の単
著論文の扱いも含めて)をどう扱うかに関しての基本方針を明確にしておく必
要がある。
2. 今回の応募論文5件を、研究分野という観点から見ると必ずしも素粒子
論の全ての領域をカバーしているとは言えなかった。より広い素粒子理論分野
の研究を選考の対象にする処方に関して、年長者が積極的に推薦するというこ
ともあり得るが、今回のように若手研究者が自主的に自薦するのがより望まし
く、そのために年長者は素粒子メダル奨励賞の意義を積極的に若い研究者に説
明し自薦で応募するよう説得することが望ましいというのが今回の選考委員会
での多数意見であった。自薦が中心になれば、類似の研究を行ったにも拘わら
ず選考の対象にならなかったといったネガティブな感情が若い人たちの間で芽
生えるのを防ぐこともできると考えられる。
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