Date: Sun, 8 Jan 2012 22:05:47 +0900
Subject: [sg-l 6955] 第6回素粒子メダル奨励選考結果

素粒子論グループの皆様、

素粒子メダル奨励賞選考委員会より、
2011年度(第6回)素粒子メダル奨励賞の選考結果報告書を
いただきましたので以下にご報告いたします.

素粒子論委員会
委員長 橋本 幸士

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第6回(2011年度)素粒子メダル奨励賞選考結果報告書

第6回素粒子メダル奨励賞は2件、3名の方に授与されることになりました
ので、報告いたします。

2011年度素粒子メダル奨励賞選考委員会
五十嵐尤二、大野木哲也(委員長)、河本昇(副委員長)、
杉本茂樹、萩原薫、前川展祐

受賞者氏名:
1. 伊部昌宏(いべ まさひろ)、北野龍一郎(きたの りゅういちろう)
 “Sweet Spot Supersymmetry.”,
 Journal of High Energy Physics 0708 (2007) 016.

2. 吉田健太郎(よしだ けんたろう)
”Families of IIB duals for nonrelativistic CFTs.”,
Journal of High Energy Physics 0812 (2008) 071.

受賞理由:
1. Masahiro Ibe, Ryuichiro Kitano,
“Sweet Spot Supersymmetry.”,
Journal of High Energy Physics 0708 (2007) 016.

超対称理論は、標準模型のヒッグス質量に関する微調整問題を解決する理論
として有望視されているが、超対称性の破れの起源については、いまだに
よくわかっていない。対象論文では、超対称性の破れに関する新しい可能性
として重力媒介機構とゲージ媒介機構の両方の長所が働くことで、その現象
論的宇宙論的な制限が非自明に満たされるシナリオを提案した。特に、グラ
ビティーノ質量を1GeVと取ると、ゲージーノ質量、ヒッグジーノ質量、
ダークマターであるグラビティーノの残存量が、現象論的観測的に好ましい
値になるだけでなく、そのスケールが大統一スケールに定まることも興味深い。
さらに低エネルギーでの予言や、LHCでの検証方法まで提案している。現象
論的宇宙論的制限を満足するシナリオ構築から、その検証に至るまで、幅広
く総合的に議論しており、高く評価される。

2. Sean A. Hartnoll and Kentaroh Yoshida,
 ”Families of IIB duals for nonrelativistic CFTs.”,
 Journal of High Energy Physics 0812 (2008) 071.

時間方向 t と空間方向 x を (t → a^z t, x → a x)  のように異なる重みでスケール
させる非相対論的な共形対称性を持つ系は、極低温原子系(z=2 の場合)など
の物性系で実現されると考えられ、物理的に大変興味深い対象である。この
ような対称性がある系を解析する新たな手段として、この系に対応するホロ
グラフィック双対な記述を構成する試みが2008年ごろにいくつかのグループ
によってなされていた。

AdS/CFT 対応のときの類推から、ホログラフィック双対な記述は、この対称性
を isometry として持つ曲がった時空における重力理論によって与えられると期
待されるが、理論の詳細な性質を調べる上でも、量子論的な整合性の意味でも、
このような系を弦理論の枠内で構成することは重要なステップであると考えら
れる。その中で、吉田氏は Hartnoll 氏(非会員)とともに、この非相対論的な
共形対称性を持つ超重力理論の解として、それまでに知られていたものを一般
化し、広いクラスの解を構成することに成功した。特に、z の値が任意の場合
や B 場がある場合とない場合なども含み、応用の幅が大きく広がった。また、
この種の解の周りの摂動に対する安定性/不安定性もこの論文によって初めて
議論され、パラメータの取り方によっては不安定になりうることが示された。
この不安定性は非相対論的な共形対称性を持つ物性系における新たな現象を示
唆する可能性があり、今後の研究に期待が持たれる。吉田氏らの解析は、こう
した研究における先駆けとなるもので、その後、多くの研究者によって応用や
拡張が議論され、この分野における研究の進展に大きな影響を与えた。このよ
うに、対象論文は非相対論的な共形対称性を持つ系の弦理論を用いた解析に対
して大きなインパクトを与えた優れた論文であり、素粒子メダル奨励賞に相応
しいものである。

 [総評]
今回は皆様のご努力のおかげで自薦12、他薦2、計14件と多数の応募がありました。
選考委員会では、まず各応募論文に対し複数名による査読を行いました。その後、
委員が集まって査読レポートをふまえて議論を行い、今回の受賞者を全員一致で
決定しました。

賞に選ばれた論文のみならず、議論の末に惜しくも選に漏れた中にも優れた論文
がありました。また、応募されていないが賞の選考対象となりうる論文は多く
あるため、今後も自薦とともに他薦も奨励されるべきであるという意見で一致
しました。