第4回素粒子メダル授賞式の模様


2003年3月29日 日本物理学会年次大会(九州大学)の素粒子論懇談会において、 第4回「素粒子メダル」の授賞式が行われました。選考経過、および 業績の説明に ついては 2003年度素粒子メダル選考委員会(九後 汰一郎委員長)の報告[sg-l 2236] をごらんください。

素粒子メダル,並びに素粒子メダル功労賞受賞者
素粒子メダル
高橋 康 氏:場の理論における恒等式の研究
素粒子メダル功労賞
小沼 通二 氏:素粒子奨学会の設立以来の責任者として若手研究者育成に貢献



業績の説明
素粒子メダル

量子電気力学(QED)のくりこみ理論の定式化において、Wardの恒等式と
呼ばれる関係式が重要な働きをした。すなわち、電子の波動関数の
(線形発散に関係した)くりこみ定数と光子と電子の間の結合を表す
頂点関数の(対数的な発散を示す)くりこみ定数の間に関係があること
を示し、くりこみ理論の一般的な扱いを見通しのよいものにした。
高橋康博士は、このWardの恒等式を、理論を記述するLagrangianが持つ
任意の対称性をGreen関数の間の関係として表現する恒等式に一般化した。
  このようにして定式化されたWard-高橋の恒等式は、連続的な対称性に
対して成立するNoetherの定理とならんで、現代的な場の量子論において
対称性の原理を表現する最も基本的な関係式となっている。
  Ward-高橋の恒等式は、素粒子論のみならず物性理論等における場の
理論の応用においても多用されており、その重要性は論を俟たない。
  高橋先生(と故梅沢先生)が在籍されたAlberta大学には日本の素粒子論
の研究者のみならず統計力学の若手研究者等も多く訪問し活発な研究が
行われたことも周知のことである。この面でも先生の素粒子論グループへの
寄与は大きい。

素粒子メダル功労賞

素粒子奨学会は、中村誠太郎先生により1973年に設立され、2003年度までで
延べ 149名にのぼる若手研究者に奨学金を支給してきた。今年度も素粒子論
(原子核理論、宇宙線、宇宙物理を含む)の研究者1名を募集した。小沼通二
先生は、この奨学会の設立当初から今日まで、一貫してその事務局の責任者
として中村誠太郎先生を補佐し、奨学生募集、選考委員の依頼や審査委員会
の手配など、奨学会の運営にかかわる事務全般の仕事を引き受けられ、
素粒子論グループの若手研究者育成に大きく貢献されてきた。この奨学金の
原資は中村誠太郎先生が民間の篤志家から集められた浄財によるものであり、
中村先生無しにはもちろん素粒子奨学会の存在は考えられないが、一方、
小沼先生の熱意と事務能力に裏打ちされた全面的支援無しには、素粒子奨学会の
事業が今日まで31年間の長きにわたって存続することができなかったことも
また明らかである。また最近では、小沼先生自らが運営委員長として募金活動を
引きついでおられる。
  近年は、学術振興会の特別研究員の他、21世紀COE研究拠点のポスドクなどが
多数採用されるようになってきたが、依然として無給の苦しい生活の中で地道に
研究を進めているオーバードクターも数多くいる。素粒子奨学生は、研究場所を
自分で選び、書き下ろしの奨学生論文で応募するというユニークなもので、
奨学金の額が少ないにもかかわらず、採用された奨学生が受ける精神的励ましは
非常に大きなものがある。この素粒子奨学生となって苦しいオーバードクター
時代を乗り越えられた人達の中から、幾多の優れた研究者が育ったことを考える
ならば、中村先生とともに小沼先生が支えられてきた素粒子奨学会の活動は、
大変素晴らしいものであり、素粒子論グループメンバーの研究活動に大きく
貢献されてきたと考える。ここに小沼先生に第二回素粒子メダル功労賞を
お贈りしその功績をたたえたい。
  もちろん、この素粒子奨学会の活動は、中村先生や小沼先生のみならず、
常任委員の森田正人先生、河原林研先生をはじめ、多くの素粒子奨学会委員
および外部委嘱審査委員の協力によって支えられて来たことは言を待たない。
殊に昨年急逝されるまで奨学生審査の実質的責任者として長くご尽力頂いた
河原林先生のご貢献はまことに大きなものがあった。このことを特に記して
我々の謝意を表したい。