2017年日本物理学会理論核物理領域:若手奨励賞(第18回核理論新人論文賞)授賞者
(所属は当時のもの)


受賞者名:須原 唯広(松江工業高等専門学校) 題名:12C, 16Oのリニアチェイン構造における一次元α凝縮    One-dimensional α condensation of α-linear-chain states in 12C and 16O 論文題目:One-dimensional α condensation of α-linear-chain states in 12C and 16O 著者: T. Suhara, Y. Funaki, B. Zhou, H. Horiuchi, and A. Tohsaki 発行雑誌:Phys. Rev. Lett. 112, 062501 (2014) 受賞理由: アルファ粒子の希薄気体的な模型波動関数(THSR波動関数)は、12Cに存在する特異な 励起0+状態(ホイル状態)に対して提案され、成功を収めてきた。本研究では、同様の THSR波動関数が、アルファ粒子が直線上に並んた直鎖(linear chain)状態の記述にも 適用可能であることを示し、直鎖構造に関する新たな知見をもたらした。 12Cや16Oなどにおける直鎖状態は、本研究以前には局所的な空間配置を持つ状態と され、希薄気体状態とは性質を異にする状態と考えられていた。本研究では直鎖構造を もつ3アルファ、4アルファ系を高精度に記述し、得られた状態が、アルファ粒子の 1次元希薄気体状態という単純な構造の模型関数によって近似よく記述可能である ことを示した。その上で、パウリ原理の効果によって局在した密度分布が出現する ことを明らかにして、それ以前の直鎖構造の理解を覆す新たな学術的知見を与えた。 須原氏は、この研究において中心的な役割を果たしただけでなく、本論文以外でも 直鎖構造に関する論文を発表するなど、原子核の直鎖構造解明に大きな貢献を果た している。特に炭素の原子核において、3つのアルファ粒子による直線構造の安定性や アルファ粒子自体が壊れる効果などを調べ、現実の系において3アルファ直鎖構造が 本当に存在できるか否かという疑問に取り組んでいる。 また最近、14C原子核での直鎖構造に関して、須原氏の理論予測を支持する有力な 実験データが複数報告されている。 以上の事から、直鎖構造の理解を大きく前進させた須原氏の研究は高く評価されて おり、日本物理学会若手奨励賞に相応しい内容と言える。
受賞者名:角田 佑介(東京大学大学院理学系研究科附属原子核科学研究センター) 題名:Ni同位体における新奇な変形共存現象と核子配位に依存した殻進化の研究    Novel shape evolution in exotic Ni isotopes and configuration-dependent shell structure 論文題目:Novel shape evolution in exotic Ni isotopes and configuration- dependent shell structure 著者: Yusuke Tsunoda, Takaharu Otsuka, Noritaka Shimizu, Michio Honma, and Yutaka Utsuno 発行雑誌:Phys. Rev. C 89 (2014) 031301(R) 受賞理由: 異なった形状を持つ状態がほぼ等しいエネルギーに安定に存在する変形共存現象は、 集団運動模型などによって長年精力的に研究が進められてきた。特に不安定核に おける変形共存現象は、その背後にある殻効果と相まって、近年興味を持たれている 課題である。 本論文では、モンテカルロ殻模型に原子核形状を解析する新しい手法を導入すること で、Ni同位体の変形共存現象が調べられており、中性子過剰な同位体における3種の 変形状態の共存などが見いだされている。またその背後にあるメカニズムとして、 原子核の形状と粒子配位の変化に伴い、動的に殻構造が変化する新しいタイプの 殻進化が提唱され「第二種殻進化」と命名されている。 角田氏は、この研究において中心的な役割を果たしている。角田氏は、既知の 実験データを再現する様に注意深く有効相互作用を最適化することで、Ni領域に おいて信頼性の高い殻模型計算を実現した。また、モンテカルロ殻模型の波動関数 から原子核形状の情報を引き出し、可視化する方法を考案した。これによって、 従来の殻模型では不可能であった変形共存の研究を可能にした。この方法は、 その後T-plotと呼ばれ、世界的にも広く用いられている。本論文は発表以来国内外の 注目を集めており、実験家との共同研究によってその理論予測が証明されつつある。 また、「第二種殻進化」の概念が他の同位体にも適用されるなど、大きく研究が発展 している。こうした一連の研究の発端となった本論文、そこで中心的役割を果たした 角田氏の業績は高く評価でき、日本物理学会若手奨励賞に相応しい内容と言える。
受賞者名:服部 恒一(Fudan University / RIKEN-BNL Research Center) 題名:高強度場中における光の複屈折 Vacuum birefringence in strong magnetic fields   論文題目:Vacuum birefringence in strong magnetic fields: (I) Photon polarization tensor with all the Landau levels 著者: Koichi Hattori and Kazunori Itakura 発行雑誌:Annals of Physics 330 (2013) 23-54 論文題目:Vacuum birefringence in strong magnetic fields: (II) Complex refractive index from the lowest Landau level 著者: Koichi Hattori and Kazunori Itakura 発行雑誌:Annals of Physics 334 (2013) 58-82 受賞理由: 高強度磁場・電場中における物理現象は、近年、高エネルギー原子核衝突、中性子星、 高強度レーザー物理など、幅広い分野にお ける 研究対象になっている。光子の偏極 テンソルはこれらの物理を理解する上で基本的な量である。特に外場が強い場合は、 摂動論において外場に対して全次数のグラフを足し合わせる 必要がある。真空中におけるこのグラフの和は、仮想光子について1ループの場合、 固有時間法により、二重積分の形で書けることが知られていたが、被積分関数は激し く振動する関数であり、実用には適さないものであった。第一論文で、 著者 らは 外場が磁場である場合にこの積分を解析的に遂行することに成功し、よく知られた 特殊関数の無限級数の形で書けることを示した。この級数の収束性はよく、応用面で 非常に 有用 である。著者らは、解析計算に成功しただけでなく、 さらに この 無限級数の各項と磁場中の相対論的フェルミ粒子に関するランダウ準位との関係を 綿密に考察し、偏極テンソルの物理的全体像を明らかにした。第二論文では、第一 論文で得られた偏極テンソルの表式の強磁場極限の表式を用いて、強磁場中における 光の複屈折について 定量的な 考察を行った。これらの業績は 、高強度場中の物理に おいて、今後の 様々な研究への途を拓く基本的な ものであり、極めて高く評価でき る。以上のことから、これらの論文は日本物理学会若手奨励賞にふさわしい。
受賞者の方々には、2017年3月の学会年会において若手奨励賞受賞記念講演を 行なっていただく予定です。 (核理論委員長 萩野浩一、担当幹事 延与佳子)
核理論委員会(2016年10月13日)