Date: 2008年11月25日 11:23:23:JST
Subject: [sg-l 4782] 第3回(2008年度)素粒子メダル奨励賞選考結果

素粒子論グループの皆様、

素粒子メダル奨励賞選考委員会より、
2008年度(第3回)素粒子メダル奨励賞の選考結果報告書を
いただきましたので以下にご報告いたします。

尚、来年春の日本物理学会(64回年次大会)における
素粒子論懇談会で授賞式を行います。

素粒子論委員会 素粒子メダル奨励賞担当
磯 暁、 高柳 匡

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第3回(2008年度)素粒子メダル奨励賞選考結果報告書: 

第3回素粒子メダル奨励賞の受賞論文・受賞者(2件、3名)が以下のように決りましたので報告いたします。 

         2008年度素粒子メダル奨励賞選考委員会
          石橋延幸(副委員長)、岡田安弘、加藤光裕、萩原 薫、松尾 泰、林 青司(委員長) 

受賞者氏名:
1. 須山孝夫(すやまたかお)
"Properties of string theory on Kaluza-Klein Melvin background,"
  Journal of High Energy Physics 0207 (2002)015.
2. 安倍博之(あべひろゆき)、阪村 豊(さかむらゆたか)
"Roles of Z2-odd N=1 multiplets in off-shell dimensional reduction of 5D supergravity,"
  Physical Review D75 (2007) 025018.

受賞理由:   

1. Takao Suyama
"Properties of string theory on Kaluza-Klein Melvin background,"
  Journal of High Energy Physics 0207 (2002)015.

 閉弦のタキオンが凝縮する際にどのような力学的転移が起こるかという問題は、弦の真
空の決定などの上で大変重要である。開弦のタキオンに対しては、弦の場の理論を通じて
ブレーンの生成消滅という理解に至ったが、閉弦に対しては、off-shell定式化が知られ
ていないためその重要性にもかかわらず解析が進んでいなかった。このような状況を一変
させたのは Adams, Polchinski, Silverstein(APS)による2001年の論文である。
 須山氏の論文は、APS論文の直後に書かれ、閉弦に対するタキオン凝縮の重要な例として
知られるMelvin背景におけるIIA型超弦の解析をAPS論文と同様の手法を用いていち早く
行い、不安定な0A型弦から安定なIIA型弦への転移を説明した。この結果は、その後の閉
弦のタキオン凝縮の研究の発展に大きく寄与した。また須山氏はAPS論文より以前にも
Melvin背景の解析を単独で行ってきており、その研究の独創性も十分評価できる。

2. Hiroyuki Abe and Yutaka Sakamura
"Roles of Z2-odd N=1 multiplets in off-shell dimensional reduction of 5D supergravity,"
  Physical Review D75 (2007) 025018.

 本論文は5次元超重力理論をS1/Z2オービフォールド上にコンパクト化した場合の4次
元有効理論をN=1超対称性のオフシェル構造を保ったまま導出する方法を示したものであ
る。超対称高次元理論は超弦理論のコンパクト化、ブレーンワールドシナリオ、超対称化
したランドール-サンドラム模型など様々な場面で登場し、弦理論から素粒子現象論まで
いろいろな解析で重要な役割を果たしている。特にモジュライと言われる力学的自由度が
4次元低エネルギー有効理論にどのように現れるかを正確に求めることは鍵となる。
 安倍氏と阪村氏は2004年頃から共同でこの問題に取り組んできており、本論文はその
一つの到達点を示すものである。この論文では5次元コンフォーマル超重力に基づく定式
化を使うことにより、5次元方向の幾何によらずに4次元有効理論を見通しよく導出する
ことに成功している。この研究結果は高次元模型の構築や現象論的解析にインパクトを与
えるもので、高く評価される。

総評: 
 今回は2件の応募があり、いずれも自薦でした。選考過程としては、まず提出され
た書類に基づいて、全選考委員が全ての応募論文に対する評価を行い、その結果を集計し
ました。この集計結果に基づいて意見交換を行った後、更に全委員が集まる会合の場を
設け議論を深めました。その結果、上記の2件を素粒子論委員会に推薦することを全員
一致で決定いたしました。これらの2件は、いずれも各分野で重要なテーマについて意
欲的に取り組んだ力作であるとの評価を得ました。 
今回は応募件数が少なく、その点では残念でした。本奨励賞の選考対象と成り得る
研究は潜在的に沢山あると思われますので、この賞の定着の為にも、来年度以降、自薦、
他薦を問わずより積極的な応募が成されるよう期待いたします。