自然界にはいろいろな保存則が見られます。保存則は自然界のもつ対
称性(不変性)を表しています。南部陽一郎博士は、1960年代初
めに「対称性の自発的な破れ」の原理を素粒子物理学に導入しました。
これは、自然界ではいつでも対称な状態が実現されるわけではなく、非
対称な状態の方がエネルギーが低くなる場合には、(対称性が自然に壊
れて)非対称な状態が実現されるという考えです。この原理は初めにハ
ドロン物理のカイラル対称性の考察を契機にして発見され、次にゲージ
理論に応用されてゲージ粒子やフェルミ粒子など自然界の物質に質量を
与えるヒッグス機構へと拡張されました。我々の住むこの宇宙でも、
ビッグバン以来、高い対称性が次々と自発的に壊れて現在に至ったと考
えられています。対称性の自発的な破れは、ゲージ原理と並んで素粒子
の標準理論の最も重要な柱となっています。 南部博士はまた60年代半ばに、強い相互作用の理論を探求する 中で、カラーの自由度とそれを媒介するグルーオンを初めて導入して、 量子色力学(QCD)の原型を提案しました。更に、同博士が 60年代末に提唱した弦模型は今日重力を含む素粒子の統一理論の候補と して大きく発展しています。これら素粒子論への著しい貢献に対し 2008年度ノーベル物理学賞が南部博士に授与さました。 講演会では南部先生ご自身の平易なお言葉で、このような素粒子論の 発展を興味深いエピソードを交えながら語っていただけることと思いま す。 |