Volume 41-1修士論文
ニュートリノ振動における波束効果
三谷 日姫 (東京女子大学大学院)
素粒子論研究・電子版 Vol. 41 (2023) No. 1
2023年8月7日受理
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概要
ニュートリノ振動現象の存在が確立してから25年が経過しようとしている。しかし依然として、ニュートリノの質量階層性や質量値などをはじめとして、多くの事柄が未解決のままで解明を待っている。以前の研究ではニュートリノ振動は主として平面波を用いて計算されてきたが、近年ではより本質的で精密な、波束を用いた定式化による議論が盛んになってきており、これが将来の理論的、実験的進展に寄与するものと期待されている。本研究ではニュートリノ振動の波束効果に焦点を置き、量子デコヒーレンス (量子もつれの解消) について調べた。その結果、ニュートリノの生成と検出に関わる二乗波束幅は、デコヒーレンス長と波束の伝搬を支配する局在化因子においては加法的に現れるのに対し、運動量保存因子では換算的(逆数の和の逆数)に現れることを得た。また、遷移確率の全体的な規格化は換算的なものと加法的なものの比で決まることを得た。加えて本修士論文では、独自研究の論述の前に、この研究を行うにあたって参考にした、いくつかの前提となる論文(中でも特に、去年からの活発な論争「波束分離による量子デコヒーレンスの効果が、地上でのニュートリノ実験で観測できるかどうか」に関するもの)を紹介する。この論争に対する私の立場も、最後のまとめに記した。
キーワード
ニュートリノ振動、波束