2024年度(第19回)素粒子奨学会「中村誠太郎賞」候補論文の募集

 現在、日本の基礎科学の分野では、大学院ですぐれた研究業績をあげた新進
気鋭の研究者といえども、「常勤の研究職」につくことが極めて困難になって
おります。この事実は、広い意味での素粒子論(原子核理論、宇宙物理理論を
含む)の研究分野で、とりわけ深刻です。この状況を踏まえ、当該分野の研究
を行っている「常勤職についていない若い研究者」に、感動を与え研究意欲を
鼓舞する目的をもって、「中村誠太郎賞」を2006年に創設いたしました。
「常勤職についていない若い研究者」とは、大学院生、ポスドク、任期が5年
以内の常勤職に付いている者とします。
 今後受賞者の中から、広い意味での素粒子論分野の中心となって当該分野を
リードする人、あるいは、当該分野の伝統をのりこえて新天地を開拓する人が
現れることを、切に望むものであります。

 賞に冠した中村誠太郎博士(1913--2007)は、湯川秀樹門下の素粒子物理学
者であり、二中間子論、ベータ崩壊の理論など、優れた素粒子理論の研究を行
いました。加えて「素粒子論研究」の創刊、「読売湯川奨学資金」や「素粒子
奨学生」などの奨学事業を半世紀以上に亘って行い、若い研究者を激励し続け
ました。この功績によって2001年3月には「第1回素粒子メダル功労賞」を受
賞しています。

 本奨学会は、かつて第2次世界大戦後の困難な時代に素粒子論研究の発展に
「読売湯川奨学会」の果たした役割をひきつぎ、発展させるために1972年に設
立致しました。「読売湯川奨学会」の奨学生の中からは、ノーベル物理学賞を
受賞した小柴昌俊氏など、世界の物理学に大きな貢献をした多くの人材が輩出
しました。
 素粒子奨学会は、広い意味での素粒子論分野の若い研究者が当面している状
況を打開する一助とするとともに、伝統をのりこえて新天地を開拓する若い世
代の育成に資することを目的とし、民間の篤志家から寄付していただいた基金
をもとに、活動して参りました。素粒子論グループの有志の方々からの寄付も
寄せられました。
 本会の事業内容は奨学金の支給その他の奨学事業であり、1972年から2005年
まで、素粒子奨学生の募集を33回実施し、延べ150名の研究者に対して奨学金
の支援を行いました。現在各分野で活躍している人たちの中には、本奨学会の
助成を受けた者が多数含まれています。

 近年各地において、期限付き組織やプロジェクト、競争的資金による研究員
などのポスドク募集が一時的に急増したり、学振応募資格の変更、助教の任期
付きポストへの転換など、社会情勢の変化は大きいものがあります。
 しかし、依然として常勤職につくことが困難であるという、本奨学会設立当
初からの深刻な状況は続いています。一方残念ながら、2006年には、財政的理
由により奨学生を採用し奨学金を授与するという事業を続けることが困難にな
りました。このような背景をもとに、本奨学会は、若手研究者を奨励するとい
う所期の目的を新しい形で達成するために「中村誠太郎賞」を設立し、若手の
支援を継続して行ってきました。

 2024年度(第19回)「中村誠太郎賞」を 別紙規定 により募集いたします。

 なお、本奨学会の仕事は、こちらの委員によって行われています。

以上