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素粒子奨学会第19回中村誠太郎賞選考結果報告
2025年9月20日 素粒子奨学会2025年度(第20回)中村誠太郎賞の選考結果をご報告いたします。 【受賞論文】(順不同) ・川名清晴氏(Korea Institute for Advanced Study、ポスドク研究員) "Classical continuum limit of the string field theory dual to lattice gauge theory" (PTEP 2025, 033B07 (2025)) ・寺田隆広氏(名古屋大学素粒子宇宙起源研究所、特任助教) "Semianalytic calculation of the gravitational wave spectrum induced by curvature perturbations" (Phys. Rev. D 97, 123532 (2018) に基づく) 【講評】 今回は各分野合わせて12名の応募があった。審査委員会を対面(ハイブリッド)で開催し、論文審査をご担当頂いた多数の外部審査委員の協力のもと、2名の授賞者を決定した。 本賞は、大学および研究機関の常勤のポストについていない者に応募資格があるが、若手研究者を取り巻く環境は変化しており、国内でも、大学や研究所のパーマネント常勤職の前にテニュアトラック期間を設けることが一般的になりつつある。テニュア獲得の可能性は大学によって大きく異なっているが、本賞は着任から5年以内にテニュア獲得審査を受けるテニュアトラック・ポジションにある研究者の応募も可能としている。物理的意義を明確かつ丁寧に説明した論文での応募を期待する。 ・川名清晴氏 川名清晴氏の受賞論文は、高次形式対称性に対する有効理論(ランダウ理論)として高次元オブジェクトの場の理論が有望視される中、1形式対称性を持つSU(N)ゲージ理論の有効理論を、弦の場の理論として具体的に構成してみせたものである。米谷氏によって1980年に提唱されたSU(N)格子ゲージ理論に双対な格子上の弦の場の理論から出発し、その古典的連続極限を取ることで上記を実現している。また、平均場近似の範囲内ではあるが、構成した理論に基づいて1形式対称性が保たれた相における場の期待値の面積則や、対称性が破れた相における周長則が導けることを議論した。米谷論文の先駆性にも驚嘆させられるが、授賞論文は現代的な高次形式対称性の立場から、より一般的で拡張可能性のある形で有効理論の構成法を示してみせた点に特徴がある。厳密な格子ゲージ理論の定義から出発して有効理論を直接導いた意義は大きく、今後精密化や拡張などの研究の発展が期待される。 ・寺田隆広氏 Pulsar Timing Arrayによる宇宙論的な背景重力波の検出が報告され、長波長重力波の検出を目的とした宇宙空間重力波検出器が計画されている今、宇宙論的な機構で生成される重力波に関する理論的な研究は重要性を増している。宇宙の構造形成の種である密度揺らぎ(曲率揺らぎ)が2次摂動の効果で生成する誘導重力波を数値積分で評価することは原理的には可能だが、重力波のエネルギー密度の値を求めるのは数値計算コストの非常に高い作業であるため、容易ではないと考えられていた。この困難を乗り越える手法は郡和範氏との共著論文として発表された。受賞論文はその共著論文に基づき新たに書き下されたものである。寺田氏は積分核を求める積分を解析的に実行して計算コストを著しく下げることに成功し、宇宙論的な重力波生成の計算に新たな道を開いた。誘導重力波の計算は重い粒子による共鳴現象、原始ブラックホール生成、一次相転移など様々な場面で必要となるため、寺田氏によって提案された半解析的計算法はその後、多くの論文によって利用されており波及効果も大きい。 【謝辞】 本賞は、審査にご協力くださったレフェリーの方々をはじめとして、多くの皆様に支えられて、着実に歴史を重ねてきました。奨学生事業の時代から長年にわたって趣旨に賛同し、厳しい経済情勢の中でも資金の援助を続けてくださっている企業のご厚意も、素粒子奨学会の存続・発展に不可欠です。また、湯川記念財団の後援のおかげで、安定的な運営を続ける事ができています。さらには、個人からの貴重なご寄付も、素粒子奨学会ひいては若手研究者の未来を支えていくことに貢献しています。ここに全ての関係者へ感謝の意を表します。今後ともご支援をよろしくお願いいたします。 |