研究2:N(1535)粒子の磁気能率の計算

本研究では力学的に生成された励起バリオンの電磁的性質を調べるために、N(1535)粒子の磁気能率を計算した。N(1535)は負パリティを持つ核子の励起状態で、ηNという特殊なチャンネルに崩壊しやすく、実験、理論の両面から興味を持たれている。N(1535)の磁気能率は、構成的クォーク模型による計算や実験の計画などが行われている。

カイラルユニタリー法では、メソンやバリオンと光子の結合をカイラル摂動論の枠内で導入し、力学的に生成された励起バリオンの制動放射から、磁気能率を引き出す。実験的に十分確立されていない励起状態の情報を直接用いずに、メソンとバリオンの自由度のみで計算ができるのがこの模型の利点である。結果としてわれわれが得た磁気能率の値は、核磁子を単位としp(1535)が1.1、n(1535)が-0.25であった。

この結果を解析すると、isovector成分の優位性が基底状態の核子に見られるほど強くないことがわかる。また、同じ手法で計算されたΛ(1670)の磁気能率が、今回の結果とあわせてSU(3)対称性から決まる関係式を定性的に満たしていることから、Λ(1670)とN(1535)がSU(3)の八重項表現を構成することが予想され、興味深い。また、構成的クォーク模型の結果と比較すると、定性的に似ているが絶対値は異なることがわかる。クォーク模型では励起バリオンをクォーク3つで表現する一方、カイラルユニタリー法ではメソンとバリオンの準束縛状態として記述するので、結果の違いはこの描像の違いを反映していると考えられる。
picture

参考文献:論文[3]、紀要[4][6]、発表[4][5][6]


本文の内容に関する質問、ご意見ご要望はこちらまで。
トップへ