研究4:Θ粒子の量子数の研究

最近SPring-8、LEPSでエキゾチックな5クォーク状態(クォーク4つと反クォーク1つ)と考えられるΘ粒子の存在を示す実験結果が得られた。この粒子はストレンジネスS=+1をもち、崩壊幅が非常に狭いなど特徴的な性質をもっている。Θ粒子の存在は、Diakonovらによって1997年、カイラルクォークソリトン模型で予言された。実験の結果は、予言された質量や幅と非常に良い精度で一致した。カイラルクォークソリトン模型では、Θ粒子のスピン、パリティが1/2+と予言されていたが、実験的にはスピン、アイソスピン、パリティなどの量子数はまだ確定していない。本研究では、Θ粒子の量子数を実験で判別できるような過程、観測量を、カイラル摂動論に基づいた模型(†)で計算する。

ここでは K+p -> π+K+n 過程を計算する。この過程では、K粒子の質量が大きいので低エネルギー模型が適用可能であり、ハドロンのみの過程なのでγを入射する場合と比べて機構が単純になることが利点である。量子数は、アイソスピンが0または1、スピンとパリティは、KNチャンネルとの結合がs-waveかp-waveになるような、

  スピン1/2 スピン3/2
パリティ- s-wave p-wave
パリティ+ p-wave  

の各々の組み合わせを考える。量子数の選び方によってKNチャンネルとの結合が変わるので、観測量にあらわれる違いから量子数を同定する。

始状態と終状態の核子がある方向に偏極しているような過程が観測できれば、Θ粒子のアイソスピンが0でスピンパリティが1/2+の状態であったときにのみ、微分断面積の角度依存性や終状態のKN系の不変質量分布に特徴的な振る舞いが見られる。
angle mdist
よって、このような実験がΘ粒子の量子数の決定に役立つ事がわかった。

(†):ここではカイラルユニタリー法は用いられていない。計算ではΘ粒子ははじめからあからさまな自由度として扱われる。Θ粒子と結合するチャンネルKNの相互作用はカイラル摂動論で斥力であり、それをユニタリー法で非摂動的に足し合わせても共鳴を生成することはできない。つまり、単純なメソン・バリオンの描像では記述できない。これもΘ粒子の特徴的な性質である。

参考文献:論文[5]、紀要[10][12][13][15]、発表[8][11][13][15][17][20][22][23][25]


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