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Date: Fri, 26 Oct 2001 16:30:41 +0900
From: "Yuko Fujita" 


「Women in Physics 準備調査研究」

http://saiya.msre.kumamoto-u.ac.jp/~wp/
世話人 浅川 恵理(KEK)、伊藤 厚子(理研)、加賀山 朋子(熊本大工)、 北原 和夫(ICU教養)、登谷 美穂子(京大理)、鳥養 映子(山梨大工)、 野尻 美保子(基研)、野村 和泉(核融合研)、初田 真知子(KEK)、藤田 裕子(基研)、 坂東昌子(愛知大法)、八木 江里(東洋大経済)、米沢富美子(慶応大理工) 内容 アメリカ物理学会が「Wanted More Women in Science and Technology」という パンフレットを出したのが、1960年代である。米国では、1960年代に積極的差別 是正措置(affirmative action)を採用し、40年近くの経験をつんでおり、女性 がさまざまな場で活躍できるように、積極的改善措置(positive action)を設け、 数値目標を定めて女性の比率を高める取り組みが進んできた。 我が国でも雇用機会均等法(1997年)の成立を経て、ようやくアカデミックな世界 にも変化の兆しが現われてきた。国大協が、「女性教官の比率をこの10年間で20% に」という数値目標とタイムテーブルをうちだし(2000年)、蓮見前東大総長が、 「21世紀を生き残る大学にするためには、広く人材を求め、女性の能力を活用す べき」だとの見解を示した。こうして、日本の学術界も変革の時を迎えている。 こういう流れの中で、IUPAP(International Union of Pure and Applied Physics) が2002年3月にパリで「Women in Physics」の国際会議を開くことになり、日本 学術会議物理学研究連絡会議IUPAP委員 福山 秀敏 氏を通じて日本に参加要請が きた。これをうけ、歴史上初めて物理学会の中に、その準備のために女性研究者 問題を考える委員会(北原委員長 男性3名、女性3名)が結成され、その下に ワーキンググループを設置してこの問題に取り組むこととなった。提案説明者 (坂東)ならびに提案者(伊藤、北原、八木)は委員会のメンバーとなり、 提案者(加賀山、野村、登谷、鳥養)はワーキンググループのメンバーであり、 ともに、WGの実行責任を負うこととなった。 女性研究者の欠如は、公正さ(Equity)、優秀さ(Excellence)、効果(Efficacy)、 効率性(Efficiency)という4つのE指標の尺度であり、まさにそのために 「Main streaming gender equality」という科学政策をヨーロッパ協議会は提案 しているという。女性研究者の機会均等の理念は、科学の発展の方向と結びつい ているというこの考え方は大変興味深い。ただ、女性の意思決定の場への参画を 促したこの措置の意義は一般には大きいのだが、アカデミックな世界での数値 目標設定については、論議の分かれるところである。科学活動の原則に基づいた 評価基準に、ジェンダー視点を持ち込むことには、賛否両論があろう。「機会の 均等」と「結果の均等」の理念の違いはどこにあるのか、また積極的改善措置 (positive action)をどう科学活動の現場に持ち込むのか、女性パワーが顕著に なった今だからこそ、現場を見据えた検討が必要である。 この機会を生かして、物理学会ならびに応用物理学会における研究者の実態を 調査するならば、我が国の学術体制の男女比較のみならず、その学術体制の問題 点にメスを入れる事が出来る。こうした、実態調査のデータに基づき、科学活動 の原則にてらして、数値目標の理念と意義を検討する事によって、単にジェンダー 理念や原理の問い直しだけでなくわが国の学術体制の現状と問題を見据え、その なかで「機会均等」の意味を把握する事ができるだろう。また、既に経験のある 米国の現状の評価をしたい。チャンスを生かして今後の学術研究システムの改善 のために、ヒューマンソースをいかに利用すべきかという観点をいれて、有効な 調査研究を行うべきだと考え現在活動を開始している。 ワーキンググループは来年3月の国際会議に向けての準備を行っているが、何分 にも急な話のうえに、このような境界領域の新しい試みを受け入れるための共同 研究用の資金がない。現在、文部科学省の科学技術振興調整費「科学技術政策提 言」(代表 北原和夫)に応募しているが、当面の準備期間の資金は何もなく、現在、 手弁当でワーキンググループを開いている。物理学会は、パリ会議準備委員会の 財政的援助を行っているが、限られた財源である。従って、準備研究のための討 論会を今後頻繁に開催する事を考え、準備のための研究会旅費として、ワーキング グループのメンバーを中心に、関係するメンバーが討論議論ができる為の研究連絡 を中心とした研究会を提案する。 本研究計画は、純粋の基礎物理学研究とは少し性格が異なった調査検討を目的と するものではあるが、その意義は今後の研究体制のあり方、研究の活性化のための 貴重な資料を提供するだろうと考える。