- 背景:
- 「熱場の量子論」は、広く熱・化学平衡系、及び、非平衡量子場系を扱うもので、素粒子・原子核・宇宙論、さらには統計物理・物性物理・量子光学にまたがる研究の基礎をなすものです。このため、様々な物理現象への応用を通して得られる新しい物理像や計算テクニックの開発は、一つの分野に止まらず物理学全体の発展に寄与する場合も少なくありません。
特に近年、めざましい実験技術の進歩により、重要な実験事実が次々と得られています。高エネルギー領域ではBNLの重イオン衝突実験(RHIC)の結果から、強結合クォーク・グルーオン・プラズマ相(sQGP)の生成が強く示唆されています。これらは2007年開始予定のLHCでさらに詳しく解析され全貌が明らかにされると期待されています。一方で、低エネルギー領域では中性フェルミ原子気体の実験が盛んで、Feshbach共鳴を利用して実現した強結合フェルミ原子気体の振る舞いとsQGPとの類似性も指摘されています。
また、QCDの相構造と臨界現象、レーザー冷却された希薄気体の物理など様々な物理現象で、非平衡過程を伴う相転移を扱う話題に多くの興味が集まっています。例えば、素粒子・原子核の分野では、クォーク・グルオン・プラズマの生成に関する問題、カイラル相転移の時空発展の問題、高密度星生成の物理とカラー超伝導やその他の可能なQCD相に関する話題、宇宙論の分野では、宇宙初期における非平衡過程の相転移を通してのさまざまな構造の発生や発展について議論が進められつつあります。また、アルカリ原子のボーズ凝縮系、フェルミ原子気体における相転移は、非平衡熱場の理論の実験的検証の場であり、分野を超えて重要性を持ちつつあるトピックです。平衡過程においても、高温・高密度状態での理論の相構造と素粒子反応の解析、格子理論や繰り込み群、有効理論などの非摂動効果を取り入れた試み、平衡状態における温度・媒質・外場の効果を取り込んだときのゲージ不変な計算法など、多くの研究が進められています。
- 目的:
- 本研究会は、「熱場の量子論」をキーワードに理論の構築と応用に関する最近の進展、そこに現れる困難の解決と新しい問題意識について、素粒子、原子核、宇宙論、物性理論といった分野の枠を超えて情報を共有し、「熱場の量子論」に関する視野を広げ、新しい研究への足掛かりを築くことを目的としています。
そこで、本研究会ではいろいろな分野間での相互理解をより深められるよう、それぞれの分野から基礎的な内容を含めた講演を行っていただこうと考えています。また、十分な議論の時間を取るため、一般の講演は基本的に15分程度のショートスピーチに加えポスター発表を行うという形態を取る予定です。
- テーマ:
- 「熱場の理論」は物理学のさまざまな領域に広がった問題ですが、本研究会の期間内で十分に議論するため、素粒子、原子核、宇宙論を中心に、ボーズ凝縮・フェルミ縮退系の理論を含む「熱場の量子論」を用いた理論的研究という趣旨のもと、主として以下のテーマを扱う予定です。
A) 平衡系の熱場の量子論
A-1) 有限温度・密度 QCD の非摂動計算処方の開発
A-2) QCD の有限温度・密度相構造の微視的理解とクォークマターの研究
A-3) ハドロン・核子多体系としての原子核系に対する熱場の理論とその適用
A-4) 重力多体系における熱場の理論の研究
A-5) Tsallis統計など新たな統計力学とその熱場理論構築の可能性の探求
B) 非平衡系の熱場の量子論
B-1) 非平衡熱場の量子論構築に向けた試み及びその応用
B-2) 高エネルギー重イオン衝突とQGP、DCCをはじめとした相転移の時空発展
B-3) 希薄原子気体のボーズ・アインシュタイン凝縮、フェルミ原子気体の超流動相転移
B-4) 初期宇宙における臨界現象への応用を目指した相転移の研究
B-5) 高密度星、強磁場星の進化とカラー超伝導、カラー・フレーバーロッキング
- レビュー講演:
- 上記テーマについてのいくつかのレビュー講演を計画しています。
- 世話人
- 橘 基(佐賀大学理工学部)(代表)
奥村雅彦(早稲田大学理工学術院)(連絡)
浅川正之(大阪大学大学院理学研究科)
稲垣知宏(広島大学情報メディア教育研究センター)
江尻信司(東京大学大学院理学研究科)
阪上雅昭(京都大学大学院人間・環境学研究科)
沢柳博文(釧路工業高等専門学校)
津江保彦(高知大理学部)
中川寿夫(奈良大学教養部)
牲川 章(大阪市立大学大学院理学研究科)
松本秀樹(筑波大学大学院数理物質科学研究科)
室谷 心(松本大学総合経営学部総合経営学科)
藪 博之(立命館大学理工学部物理科学科)
山中由也(早稲田大学理工学術院)
横田 浩(奈良大学情報処理センター)