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概要

必要性

 現実世界では、新たな問題が次々に生み出されている。それはこの現実世界が創発原理に従っているからである。ところが、私たちは問題発見に慣れていない。この理由は、伝統的な客観科学の考え方が、問題解決型であって問題発見型でないからである。問題の発見と解決を可能とする、創発原理に従った「統合創造学の創成」が必要である。

概 要

 こころが、マクロやミクロの世界を認識できるのは、それらの世界をこころの中で創造できるからではないだろうか。そのため3つの世界は相似構造で示される。もちろん、創造と崩壊は対立する現象・概念であり、どちらか一方だけが優勢なわけではない。つまり、3つのどの世界でも創造と崩壊が絶えず進行している。そのため、これらの対立を統合できれば、統一的な理解が得られるにちがいない。図中のアブダクションとは、想定外の領域から情報を取り入れることを指す(パース)。
 例えば、こころの世界では、一方では、子どものこころの発達という創造的側面が見られる。しかし、他方では、こころの疾患という崩壊的側面が見られることも事実である。この一見対立している現象が、実は同じ原理に基づいて引き起こされていると考えられないだろうか。教育学者と精神看護学者の対話から、創造と崩壊を統一的に理解する共通原理が引き出されるかもしれない。宇宙構造の進化と生命進化とは何が類似していて、何が相違しているのだろうか。その比較からこころの創造性と破壊性について挑戦的な推論ができないだろうか。宇宙物理学者と博物学者の対話、さらにこころの科学者が対話に加わることによって、こころという主観的な問題を宇宙進化や生命進化という客観的な問題から議論することが可能ではないだろうか。分子科学者と経済学者や社会学者との対話から、新たな構造が生成・消滅する原理が引き出せるのではないだろうか。それは、こころの原理とどのように整合するのだろうか。さらに、一般市民の科学的前提にとらわれない斬新な意見は、私たちに新たな観点を呼び起こす起爆剤・アブダクションになるにちがいない。
 本研究プロジェクトでは、多数の外国人研究者もメンバーとして加えており、様々なテーマ・形式で場を設定し、対話を重ねていく。

新規性・独創性

 単なる客観科学の延長を目視しない。その理由は、客観科学では前提の正しさも、その科学体系自体の正しさも証明不可能なためである(ゲーデルの「不完全性定理」)。つまり、客観科学では問題が与えられれば、解決への道筋を導くことができるが、何が問題なのかを発見することには適していないのである。というのも、問題発見こそ、創造の瞬間であり、これまで解明不可能とされてきたからである。こうした混沌とした現状打開に向けて、創発原理を明らかにし、それを体験できるような「統合創造学の創成」が、今こそ必要であり、この‘創造の瞬間’を市民とともに古都京都から発信する意義ははかりしれない。