講演概要


8月17日(水)

13:00-13:50
広田良吾(早稲田大学名誉教授) 『ソリトン方程式の可積分性:差分と超離散』
Ryogo Hirota, "Integrability of soliton equations: from discrete to ultradiscrete"
 ソリトン方程式の可積分性を議論する。可積分な差分方程式を超離散化した方程式は可積分であるが、非可積分な差分方程式を超離散化した方程式が可積分な方程式に化ける場合があることを示す。一例として次の双線形差分方程式を取り上げる。
$$
\cosh[(1/2)\alpha D_m]\{\sinh^2[(1/2)D_m]-\delta^2\sinh^2[(1/2)D_n]\}f\cdot f=0
$$
この式は$\alpha=0$では戸田差分方程式であり、$\alpha=1$ではdiscrete-time Toda equation of BKP type になる。どちらも可積分である。しかし$\alpha=2$では非可積分である。ところがこの方程式の超離散極限は可積分になる。この事実の背景には「超 離散$\tau$-関数の凸性」がある。
14:00-14:50
野邊厚(千葉大学) 『トロピカル超楕円曲線のJacobi多様体における加法』
Atsushi Nobe, "Addition in Jacobians of tropical hyperelliptic curves"
 トロピカル超楕円曲線$\Gamma$の次数0の因子全体のなす群$D_0$の主因子群$D_l$による剰余群$D_0/D_l$を$\Gamma$の Jacobi多様体とよび$J(\Gamma)$で表す.$\Gamma$の種数が$g$であるとき,次数$g$の整因子全体$D_g^+$から Jacobi多様体$J(\Gamma)$への全射$\phi$が存在する.とくに$g=1$の場合$\phi$は単射でもあるため,$\phi$を通し て$\Gamma$に加法群の構造が入り,超離散QRT写像や可解カオス写像が得られることはよく知られている.本講演では,はじめにRiemann- Roch定理を用いて上述の全射$\phi$の存在を示し,とくに$g=2$の場合について,$\Gamma$と3次曲線との交叉を用いて,Jacobi 多様体の加法が$\Gamma$上の点の組の加法として実現されることを示す.また,このような加法の定める力学系についても議論する.
15:10-16:00
松浦望(福岡大学) 『曲線の差分幾何』
Nozomu Matsuura, "Discrete differential geometry of curves"
 差分幾何は離散微分幾何や離散可積分幾何とも呼ばれ、これらの呼び名が示すように、この分野においては、離散可積分系理論に適合するような幾何学的枠組 みを構築することが中心的な研究課題となっています。連続系の可積分系理論がいろいろの場面で微分幾何学と結びついていることを受けて、その離散的類似を 展開すべく1990年代の半ばころから活発に研究されるようになりました。たとえば、ソリトン方程式の代表例であるKdV方程式は曲線の運動に付随して自 然に現れることが知られていますが、このことから、離散KdV方程式によって支配されるような離散曲線の離散時間発展を見つけよう、という問題意識が自然 に生じてきます。本講演では差分幾何のうち、曲線の運動にまつわる話題について今までに知られている結果を概観したのち、目下進展中の話題について述べ、 今後の研究課題について検討します。
16:10-17:00
井ノ口順一(山形大学) 『曲面の差分幾何』
Junichi Inoguchi, "Discrete differential geometry of surfaces"
 前講演に引き続き、曲面の差分幾何について、これまでの研究を概観し、今後の研究課題を提案します。KdV, mKdV, 澤田・小寺方程式は曲線の時間発展を記述する方程式です。一方、曲面の構造方程式としてはサイン・ゴルドン方程式、より一般に戸田方程式が登場します。本 講演ではこれらの方程式の差分化とそれらに対応する「差分曲面」について解説することを主眼といたします。
8月18日(木)
10:00-10:50
岩尾慎介(立教大学) 『2次元周期箱玉系とトロピカル曲線』
Shinsuke Iwao, "Periodic two dimensional box-ball system and tropical curve"
 講演では、2次元周期箱玉系を紹介する。2次元周期箱玉系(2d-pBBS)は、2次元周期離散戸田方程式(2d-dToda)の超離散化として得られ る超離散可積分系であり、その特殊化として超離散KdV方程式(UdKdV)、超離散戸田方程式(UdToda)、超離散mKdV方程式(UdmKdV) を持つ。
 一方、周期境界条件を課した箱玉系に対しては、トロピカル曲線を用いた初期値問題の解法が知られている。本講演では、2d-pBBSのトロピカル曲線か ら出発し、特殊化によって各可積分系(UdKdV、UdToda、UdmKdV)のトロピカル曲線の形状について議論する。
 また、周期境界条件を外したらどうなるかについても議論したい。
11:00-11:50
松尾宇泰(東京大学) 『構造保存差分スキームについて』
Takayasu Matsuo, "Structure-preserving finite difference methods"
 可積分分野では,保存量を持つ系に対する保存スキーム,すなわち保存量を一個,もしくは複数個保つ差分スキームの構成方法が盛んに研究されてきた.一 方,数値解析分野でも,1980年代から「構造保存数値解法」と呼ばれる数値解法群が脚光を浴びている.これは微分方程式の数値解法の一分野であり,微分 方程式の背後にある何らかの数理構造を離散系でも再現することで(=「構造保存」),保存量やシンプレクティック性など,方程式の物理的特徴を再現する数 値解法のことである.
 本講演では,数値解析分野におけるこれらの流れを簡単に俯瞰したのち,講演者らにより開発・発展された構造保存数値解法,「離散変分法」とその最近の応用について述べる.
13:00-13:50
太田泰広(神戸大学) 『差分ソリトン方程式の話題』
Yasuhiro Ohta, "Topics of discrete soliton equations"
 ソリトン方程式を差分化する方法の一つに、解の構造を保存するように差分方程式を構成する方法がある。この方法で構成された差分ソリトン方程式に関する幾つかの話題について解説する。
14:00-14:50
渡部善隆(九州大学) 『微分方程式の精度保証付き数値計算』
Yoshitaka Watanabe, "Numerical verification of differential equations"
 精度保証付き数値計算とは,与えられた問題(数学モデル)の解の存在範囲もしくは一意存在の範囲を数値計算において発生する丸め誤差の厳密評価を含めて 特定する算法です.また,「精度保証」という言葉には,「誤差(真の解の存在範囲)の把握」とは別に,問題に対する「解の存在や一意性の数学的な保証(検 証)」という意味も含まれています.したがって,数学的な関心あるいは意義という立場からは,「検証」に力点が置かれることがあります.そのような場合, 特に,「数値的検証」という言葉が用いられます.本講演では,非線形微分方程式の解に対する数値的検証の技法とその実際について,可能な限り平易に解説し たいと考えています.
15:10-16:00, 16:10-17:00
国場敦夫(東京大学)・井上玲(千葉大学) 『クラスター代数と可積分系I, II』
Atsuo Kuniba and Rei Inoue, "Cluster algebra and integrable systems I, II"
 クラスター代数は、2000年頃にFominとZelevinskyによって導入された可換環の1種である。代数の生成関係式をmutation(変 異、組み換え)と呼ばれる関係式で書くという特徴があり、近年様々な視点から研究されている。この講演では、伊山修氏、Bernhard Keller氏、中西知樹氏、鈴木淳史氏との共同研究に基づき、クラスター代数の定義と基本的な性質、量子/古典可積分系に登場する差分方程式との関係お よび応用を紹介する。
 講演I、IIの内容は以下の予定である:
 講演I
  ・クラスター代数の定義と基本事項
  ・T-systemやY-systemへの応用(周期性とdilog恒等式など)
  ・(時間があれば)差分方程式への応用など
 講演II
  ・T-systemやY-systemのような差分方程式の一般的な構成方法
  ・クラスター変数と係数のポアソン括弧構造
8月19日(金)
10:00-10:50
岩尾昌央(早稲田大学) 『複比と周期』
Masataka Iwao, "Cross ratio and periodicity"
 ユークリッド幾何学に,複比の概念と密接に関係する定理がある.良く知られているものは次のとおり:
(T1) 1つの線分の3分割における「オイラーの定理」;
(T2) 円に内接する4辺形における「トレミの定理」;
(T3) これら2つの定理を一般化した「プリュッカー関係式」 .
以上3個の定理は,いずれも「複比の満たす関係式」と見なすことができる.
 本講演では,まず1番目の話として,
(T1) に関連した,周期5の再帰マッピングの式を紹介する.
また,線分の分割点を増やすことによって,より大きな周期の式を構成する.
 次に2番目の話として,
(T2) に関連した,周期5の再帰方程式を紹介する.
この方程式は,円に内接する5辺形に,トレミの定理を適用することで得られる.そして,内接する多辺形の辺の数を増やすと,より大きな周期の方程式を構成できる.
 最後に3番目の話として,
(T3) を使って,2番目の話で現れた周期5の再帰方程式の解を拡張する.
そして,超離散化との関係を考察する.
 以上の3個の話において,共通するツールとして,「メビウス帯上の格子における Hirota のタウ変数」を使う.
11:00-11:50
鈴木貴雄(大阪府立大学) 『ドリンフェルト・ソコロフ階層と高階パンルヴェ方程式』
Takao Suzuki, "Drinfeld-Sokolov hierarchies and higher order Painlev\'e systems"
 ドリンフェルト・ソコロフ階層はKP階層のアフィン・リー代数への一般化であり、ある種の簡約操作によって様々なパンルヴェ方程式を導く事が知られている。
 本講演では、A型リー代数に付随するDS階層を考察し、そこからパンルヴェVI方程式の一般化となる高階の微分方程式系を導出する。このようにして得ら れた高階パンルヴェ方程式は、退化極限操作によって野海・山田による既知の高階パンルヴェ方程式に帰着し、また一般超幾何函数で記述される特殊解を持つ。
 本講演では更に、上記の結果のq離散化についても言及する。すなわち、DS階層のq離散化を定式化し、そこから神保・坂井によるqパンルヴェVI方程式の高階化となるものを導き、その特殊解としてq超幾何函数が現れることを示す。
13:00-13:50
名古屋創(神戸大学) 『量子パンルヴェ系について』
Hajime Nagoya, "On quantum Painlev\'e systems"
 量子パンルヴェ系とは、パンルヴェ系の Poisson 括弧を交換子に置き換える量子化のことである。ここで、パンルヴェ系とはアフィン Weyl 群対称性を持つパンルヴェ方程式の高階化のこととする。パンルヴェ系のハミルトニアンは正準座標の多項式であるためその量子化は一意には決まらない。そこ で、量子化する際にはアフィン Weyl 群対称性を持つことを要請する。
 本講演では、すでに得られている量子パンルヴェ系の紹介および共形場理論および ゲージ理論との関連について説明する。最近得られた結果である、量子パンルヴェ系の積分表示解についても説明する。
14:00-14:50
池上貴俊(早稲田大学) 『Elementary cellular automatonの初期値問題のmax-plus解析』
Takatoshi Ikegami, "Max-plus analysis for initial value problem of elementary cellular automaton"
 Elemantary Cellular Automaton(ECA)は空間1次元時間1次元の2進デジタル系であり,次の時刻の状態が自分自身と両側の最近接近傍のみに依存する.256種類あ るECAの解の時間発展パターンが4つのクラスに分類されるというWolframの研究に端を発し,現在までさまざまな研究が行われてきた.本講演では, これらECAの初期値問題に対してmax-plus表現を用いた初期値問題の解析を行う.すなわち,各ECAの時間発展則を表す適切なmax-plus方 程式を選び,任意の初期値に対する一般解をmax-plus表現で表し,時間無限大での解の漸近挙動を解析する.max-plus表現を用いることで,2 進デジタル系の解空間は実数の区分線形方程式の解空間に拡張され,解の導出や漸近挙動の評価に解析学的手法の導入が可能となる.また得られた個々の結果を 総合することにより,ECAおよびそれを核とするmax-plus方程式の解構造に関して,従来とは異なる新しい視点を導入することが可能となる.

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