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   夫が他界したのは1990年だった。あれからちょうど10年、21世紀をむかえるにあたって、1つの節目としてここにホームページを開設することにした。これは科学者の生き方に関する1つの例であり、今後私たち科学者が、自身の情熱を傾けて研究するための環境づくりと、その科学がどのように社会と関係すべきかを探るきっかけにしたいと考えている。以下は私が夫と共に歩んだ人生のなかで、私がもっとも影響を受けたいくつかのテーマである。おいおいこれらの中身と、夫の残してくれた教訓とを整理して掲載していくつもりである。
 
  <<科学を自ら発展させるための新しい研究会の立ち上げ>>
 
 このホームページでそれほど多くのことを語ることはできないが、この10年間、私が夫の意思を受け継いで、素粒子論グループのなかで1つの夢を実現しようとして努力してきたことも、この生き方と無関係ではない。これについては、最近の物理学会誌(2000年7月号)「日本版アスペンセンターの夢」を参考にして頂くとうれしいと思う。
 
  <<生命倫理観と現代>>
 
 私は現在尊厳死協会の会員になっているが、これも夫の他界後実行した一つである。生命科学の発展にともない、爆発的なバイオテクノロジーの技術の医学への導入が日進月歩の勢いで推進されている。つい昨日のニュースでも日本でいよいよ人工皮膚を製造する企業ができたことをつげていた。夫が発病した1980年代のおわりごろ、私は人工肝臓が早くできていたら、夫の肝臓を入れ替えてもらえたらどんなにいいのになとよく思った。自分自身は「人の臓器まで使って生き延びる気はない」と思いながら、夫の臓器はほしかった。夫が他界した後にお会いしたとき、山岡先生のお言葉から、「京都大学医学部小沢先生の研究室では、やっと臓器移植をはじめる準備がととのったところだ」と聞いていた。当時はまだまだ遠かった夢がそのうちに可能になる日も近いだろう。そしてその時、医学はどう変るのか、人間の尊厳や生命の意味を見つめ直すような大きな変革が起るだろうことは間違いない。
 今年度、「バイオテクノロジーと現代」というテーマで総合科目を組んでいるが、こうしたテーマを科学者としてきちんと考えておきたいという気持ちは今でも持ち続けている。そして次の世代を担う若者たちがこうした科学の急激な発展を正確に受け止め、そこから21世紀をいきる知恵を身につけてほしいと願っている。こうした企画ができる総合科目という授業の大切さをこの10年、痛切に感じている。
 
  <<ライフサイクルに伴う環境づくり>>
 
 私たちは人が集まれる家づくり、仲間といっしょに環境を変えるために協力するという態度をとり続けてきた。困ったことがあれば、自分一人だけのために解決するのではなく、沢山の仲間といっしょに環境を変えていこう。こうして私の家を開放し、公立の乳児保育所をつくる運動、そして学童保育所をたちあげて、子供たちが共働きでない地域の子供たちとも交流できるようにと読書文庫をつくる運動など、さまざまな環境づくりに沢山のお父さんやおかあさんといっしょに取り組んで実現させてきた。
 これが私たち夫婦の指針の一つであった。そして定年を向かえたあとは、こうした生き方をふまえて新しい定年後の生活について夢を語ってきた。夫に先立たれた今もこの夢をおい続けている。
 命はもう惜しくないが、生きている限りはこうしたモットーで生き続けていきたいと願っている。
 
  <<多様な文化と仲間との交流のたのしさ>>
 
 それと今はもう一つ夢がある。私たちはお互いに同じような分野を選んだ物理学者同士であった。家庭に多くの研究者仲間を、そして女性研究者の軍団を、あるいは分野の違う仲間を招待してともに語り合うのが好きであった。日本だけではない。外国方の仲間も沢山集まった。こうしたなかで将来を語り、科学の行く末を論じ、社会のありかたを探すという楽しさは、この世で最高の時間である。
というわけで、今の私の夢は「サロン」をつくることである。きっと夫もこれに参加したかっただろう。もう60才を越したのだから、こうしたサロンの楽しさも味わうのもぜいたくではないだろう。
 それに現在は忙しい。研究におわれ、管理の仕事や教育の仕事に追われ、今の研究者はひとときの暇もない。そうしているうちに、自分の専門だけしか見えなくなり、視野が狭まって、社会と自分のやっている学問との関係も見えなくなる。日本にも昔は良質のインテリが沢山いた。武谷三男先生もそうだが、寺田寅彦、江上不二男など多くの思想に影響を与えた良質のインテリが存在した。サロンのような議論の場がなければ、真の良質のインテリは育たないのではないか。と考えているのだがどうだろうか???

 
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