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(1)
新たな巨大スケール
の存在をめぐって |
ニュートリノを伴う過程、弱い相互作用でのパリティ非保存の発見以来、左巻きニュートリノしか存在しないのではないかという固定観念が長い間素粒子研究者にあった。物質の基本をなすクォークやレプトンなどのフェルミオンの質量項(いわゆるDirac質量)は、スピン右巻きと左巻きのフェルミオンの存在下でする。もし、左巻きのニュートリノしか存在しなければ、標準理論の枠組みでクォークや荷電レプトン等に質量を与えた同じヒッグス粒子では、ニュートリノに質量を与えることは出来ない。左右非対称な物質場の存在と、ニュートリノに質量がないこととは、こうして標準理論の範囲では所与のことと思われてきた。もちろん、この電荷中性のニュートリノは例外的に左巻きもだけでも質量(Majorana
質量項)をもてることは、1960年以前から知られていたが、少なくともこれまではニュートリノ質量はあっても検出できないほど小さかった。この左巻きの小さなニュートリノ質量は、実は右巻きのニュートリノ質量がそれに応じてはるかに大きなスケールの質量を持つことを意味するのだという指摘をしたのが、柳田達である(シーソー機構;$左巻きニュートリノ質量=(標準模型のヒッグス粒子によるDirac質量)^2/右巻きニュートリノ質量$)実際、大気ニュートリノの質量から計算すると、このスケールは、およそ統一ゲージスケールに近いところまで達してしまう。このスケールでどういう物理の変更が予測されるのか、この検討が第1の課題である。 |
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(2)
世代構造の
大幅な変更 |
次に注目すべきは、大気ニュートリノに見られる世代混合が許される最大に近い値になっていることである。この大きな混合角をが何を意味するかが今後の大きな課題である。統一理論では、ニュートリノの世代混合とクォークの世代混合とは関連づけられている。
一方、クォークの質量には顕著な階層構造と微小な質量混合が見られた。このことはレプトンサイドでは、従来の統一理論下での常識的な世代分類では収まらない、大幅な世代の再編成を要求している。クォークやレプトンの質量テキスチャーの見直しとその背後にある世代の物理的意味の評価検討を行うことが第2の課題である。 |
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(3)
ニュートリノ質量の
及ぼす現象 |
更に、大気ニュートリノでほぼ確定されたニュートリノ質量と大きな混合角が、太陽ニュートリノの情報等も勘案して、現在ほぼ確立された標準理論にどういう影響を与えるか、またどういう新しい現象を予言するかも詳細に検討する必要がある。例えば、第3世代のbクォークと
$\tau$レプトンの質量比が再現できることは、$SU(5)$超対称統一ゲージ理論の成功の1つとされてきた。しかし、(1)の示唆するスケールが殆ど統一スケールに近くないかぎりこの関係を壊す。こうした詳細な現象論的チェックを経て初めて新しい物理の存在を確認できる。
またさらに積極的に新しいニュートリノがもたらす現象も詳細に検討することが課題である。例えば、世代混合がレプトン側にもあれば、レプトンフレーバーを変える崩壊過程があり、本研究で計画されている$\mu
$崩壊などの過程をふまえた現象論的なチェックと更に詳しい検討を行うことが第3のもう一つの課題である。 |
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(4)
左右対称性をもつ
大統一理論の検討 |
ニュートリノ質量の存在は、右巻きニュートリノの存在をく示唆し、(1)で述べた新しいスケールは、左右対称性の破れのスケールを意味している可能性が高い。そうすると、$SU(5)$よりは更に大きな$SO(10)$や$E_6$統一理論が有望となる。現在、左右対称な統一模型を含むさまざまな統一模型の提案がなされているが、この結論は、「大気ニュートリノの混合が$\nu_{\mu}$
か不活性ニュートリノか」、あるいは、宇宙のダークマター候補のニュートリノを考慮するかどうか、などc01の現象論的検討結果と緊密に連携しながらすすめることが重要である。
また、超対称性の破れのスケール、世代の起源のスケールなど、関連する物理と密接な連携をとりながら、リアルな統一理論構築を目指したい。本計画で得られるニュートリノ質量の情報を総動員しつつ、お互いの密接な連携をとりながら、正確な現実的な統一理論を構築することが第4の計画である。 |