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研究実績概要(2010年度)

本年度も,メンバーそれぞれが宇宙における重力の非線形・非摂動現象 に関して研究を推進した結果,多くの業績を上げた。

佐々木は,宇宙論の様々な場面で現れる互いに共形同値の時空に関して,それらの 時空における観測量を考察し,実は,共形同値の時空は実験的・観測的に区別が つかないことを明確に示した。また,DBI理論等の一般的なスカラー場モデル にも適用可能な,宇宙論的な長波長極限での非線形曲率揺らぎの保存則を 重力理論によらない形で証明した。

田中は,様々なインフレーション宇宙モデルにおける非ガウス性の計算の基礎と なる定式化を進めるとともに,赤外発散の問題について真にゲージ不変な観測量 の計算が重要であることを明らかにした。

石原は,5次元時空におけるブラックホール解の周りの試験物体の運動を解析した。 その結果,5次元ではブラックホールの周りに粒子の安定軌道は存在しないが, ストリングは安定に束縛されうることを示した。また,ブラックリングの周 りには安定な束縛粒子軌道が存在することを示した。

白水は,超弦理論的なブラックホールは回転がなければ高階テンソル場の ヘアが存在しないことを示した。また,これまで奇数次元では困難とされ ていた光的無限遠の漸近構造の定式化を5次元の場合に行うことに成功した。

早田は,超重力理論が示唆するようなインフラトンのベクトル場への結合が 存在する場合には非等方的なインフレーションが起こることを示し, 観測に対する予言を行った。また,Lovelock重力理論における小さな ブラックホールの不安定性を示した。

高橋は,運動項のインフラトン場依存性を考える事によって,原点での正則性 を保ちつつ,線形ポテンシャルや分数冪のポテンシャルを持つ カオティック・インフレーションモデルを提唱した。更にその超重力理論への拡張, ヒッグスインフレーションへの応用,周期的ポテンシャルが補正として加わった場合の スペクトル冪の波数依存性などの研究を行った。

千葉は,バリオン数生成を起こすスカラー場によって形成されるQボールからの 放出重力波を評価した。その際,さまざまな超対称性の破れのモデル・有限温度効果 を考慮して,考えられる場合をすべて調べたが,残念ながら生成される重力波は非常 に小さく,将来的には検出できそうにないことがわかった。しかし,この研究過程で, 新しいタイプのQボールの存在が明らかになり,その性質を崩壊まで含めて1次元計算 により数値的に詳細に解析した。

辻川は,ガリレオン重力理論における暗黒エネルギー模型の構築と観測的な制限に 関する研究を主に行った。また,修正重力理論における密度揺らぎの非ガウス性の 評価と,ループ量子重力理論に基づくインフレーション模型に対する観測からの 制限の研究も行った。

松原は,重力的な非線形構造形成による観測量を理論的に予言する研究を様々 な角度から行った。特に非線形摂動論を拡張して直接観測量を予言する 枠組みを一般的に定式化した。

向山は,(i)インフレーション中の軽い場の効果の解析,(ii)微分展開を用いた 宇宙論的非線形摂動の解析,(iii)ブラックホールに関する余剰次元の効果, (iv)新しい量子重力理論(Horava-Lifshitz理論)に基づく宇宙論, (v)ゴースト凝縮に基づく宇宙論,等についての研究をおこなった。

山口は,ガリレオン項と呼ばれる高階微分項を含んだ作用に基づくインフレーション モデルを提唱し,そのダイナミクスや揺らぎの性質について議論を行った。

山本は,銀河分布の多重極パワースペクトル解析におけるウィンドウ効果に関して, 逆畳込み法を用いて解決する方法を開発した。また,宇宙項模型に漸近する ガリレオン拡張重力模型を発見し,その宇宙論的摂動の進化および観測的制限 について調べた。

平松は,場の理論の定式化に基づいた宇宙ひもの動的生成をシミュレートし, そこから放出されるアクシオンのパワースペクトルの振る舞いを決定した。 また,同様のセットアップでドメインウォールと宇宙ひもの結合系の シミュレーションを行った。

以上の成果を踏まえて,3月にポーツマス大学とパリ大学を中心に海外からも 多数の研究者を招へいして国際モレキュール型研究集会 「Cosmological Perturbation and Cosmic Microwave Background」を開き, 現状の総括と今後の方針に関する議論を行った。