研究実績概要(2011年度)
最近、様々な修正重力理論において、時空計量の共形変換による観測量への影響が注目され、 様々な議論がなされている。こうした現状に対して、佐々木は、 曲率揺らぎの観測量が時空計量の共形変換に対して不変であることを明らかにした。 その上で、宇宙の進化の最中に曲率揺らぎが時空の共形変換に対してどのように振る舞うかを明らかにした。 また、弦理論に基づくインフレーション理論にもしばしば現れるハイブリッド・インフレーションにおいて、 相転移を引き起こす場が生成する曲率揺らぎを詳しく解析し、モデルパラメーターの領域に、 観測的に強い制限が課されることを明らかにした。さらに、 インフレーション最中に粒子生成などの激しい現象が起こるモデルにおける曲率揺らぎとその非ガウス性を調べ、 非ガウス性の波数依存性に特徴的な振動が現れることを明らかにした。
田中は、連星系からの重力波観測を通じて修正重力に対してつけることのできる制限を明らかにする目的で、 太陽系での観測による制限の弱い高階微分曲率項+スカラー場という理論に注目して、 その主要なエネルギー散逸の影響を見積もった。その結果、将来実現が期待されているスペース干渉計を使うと、 理論に強い制限がつけ得ることを明らかにした。
辻川は、最も一般的なスカラーテンソル理論に基づくインフレーション模型で生成される密度揺らぎの非ガウス性と、 同じ理論に基づく暗黒エネルギー模型の有効性の条件について明らかにした。また、 ループ量子重力理論に基づくインフレーション模型に対して、最新の観測から制限をつけた。
向山は、新しい量子重力理論(Horava-Lifshitz理論)に基づく宇宙論に関して、 微分展開法を用いて低エネルギーでの非線形揺らぎの振る舞いを調べ、 一般相対性理論への極限が連続的になっていることを示した。 また、新しいmassive gravity理論に基づく宇宙論についての研究を行い、 一様等方解を発見し、その周りの線形摂動を詳しく解析した。
山本は、修正重力模型の理論予言と宇宙論的観測を用いたテストを中心に研究を進めた。 特に、ガリレオン模型とその一般化された模型のヴァインシュタイン機構、 および銀河団ハロースケールでの検証を行った。
白水は、高次元時空の光的遠方における対称性がポアンカレ群になることを任意の次元で示すことに成功した。 また、静的な高次元ブラックホール時空において、 電磁場を除く高階反対称テンソル場のヘアが存在しないことを示した。
早田は、インフレーション宇宙でつくられる原始揺らぎの統計的な性質の研究を行った。特に、 パリティーが破れるような重力波の非ガウス性がスローロールパラメータのオーダーであることを明らかにした。
山口は、運動方程式が二次となる最も一般的なスカラーテンソル理論におけるインフレーションを考察し、 密度揺らぎやテンソル揺らぎのパワースペクトル及び非ガウス性の公式を与えた。
松原は、重力相互作用による非線形成長に関する理論を発展させ、摂動論に基づいた一般論を展開し、 具体的に2ループ補正まで計算した。そして観測量の予言を行い、 得られた結果を数値シミュレーションと比較してその妥当性を調べた。
千葉は、遠方の星を観測するとブラックホールによる「影」がみえるが、 これがブラックホールの存在の直接証明になることに着目し、 一体の場合と大きく異なり、二体のブラックホールの衝突に伴う影は、 単なる重ねあわせではない複雑な構造が現れることを見出した。 また、物理定数の時間変化に対する観測的制限のレビューをまとめた。
石原は、コンパクトな余剰次元をもつ高次元ブラックホールの厳密解について幾何学的な構造を解析した。 そして、高次元に拡張されたTaub-NUT空間を規定空間とする高次元ブラックホールでは、 5次元より大きな次元で時空の地平線における計量の滑らかさが失われることを明らかにした。 また、宇宙におけるスカラー場のソリトン解や粒子の保存量について新しい提案をした。
高橋は、2次ポテンシャルから大きくずれた場合を含む一般のポテンシャルに対し、 インフレーション宇宙のカーバトンモデルが予言するスペクトル指数や非ガウス性の解析的表式を導いた。 特に擬南部-ゴールドストーン・カーバトンの場合には検証可能な非ガウス性を予言することを示した。
以上の成果を踏まえて、2月に韓国天文宇宙科学研究院において、 KASI-YITP合同研究会「Cosmology Now and Tomorrow」を開き、 宇宙論の現状の総括と今後の研究方針に関する議論を行った。 また、3月には基礎物理学研究所において、アジア太平洋スクール・研究会を開催し、 インフレーション宇宙・修正重力理論・高次元ブラックホールの研究の最先端と今後の課題について議論を行った。