Date: Wed, 26 Feb 2003 11:21:55 +0900 Subject: [sg-l 1820] 素粒子メダル 素粒子論グループの皆様 第3回素粒子メダルの受賞者が、選考委員会にて慎重審議の結果、 下記に添付した報告書の通り決定しましたのでお知らせ致します。 なお、授賞式は春の学会における素粒子論総会においてとり行う予定です。 2003年2月26日 賞WG 坂東昌子、菅本晶夫、谷本盛光(委員長) %%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%% 2003年度素粒子メダル及び素粒子メダル功労賞 選考報告書 素粒子論委員会賞ワーキンググループ委員長 谷本盛光 様 2002年度の素粒子メダル及び同功労賞の選考が以下のように終了 しましたので、ご報告いたします。 2003年2月23日 2002年度素粒子メダル選考委員会 猪木慶治 江口 徹 坂井典祐 東島 清 *益川敏英 柳田 勉 (* 委員長) -------------------------- Report------------------------ 2002年度素粒子メダル受賞者: 木村 利栄:重力外場中でのカイラルアノマリ-の研究 牟田 泰三:QCD 理論における繰り込み処方(MS bar scheme)の研究 2002年度素粒子メダル功労賞受賞者: 該当者無し <選考の経過> 1. 2002年12月20日受賞者推薦締め切り 素粒子メダル 2件、素粒子メダル功労賞 0件の推薦を受け付けた。 2. 選考委員全員が素粒子メダル推薦業績の原論文を閲読し、閲読 結果を文章で委員間で交換した。 3. 以下の選考基準に基づき、素粒子メダルに該当するかいなかに 関してて委員間で意見を交換した。結果二氏を該当するとした人 と、二氏に順位を付して推薦した委員がいた。 選考基準: 素粒子メダル設立趣意書に記された 3.a 顕著な業績であるが、他の賞等で顕彰される機会を逸し た先輩たちの論文 と言う精神を配慮した上で、 3.b 世界的な視野で見て、独創性において傑出した業績であ ること 3.c その後の素粒子論の発展において当該論文(あるいは、埋 もれた業績の場合は後発する類似の研究)が大きな影響を与 えたものであること。 3.d 日本国内での類似のテーマに関して同時期あるいはそれ以 前になされた研究がある場合には、当該研究のみに賞を出す 理由が明らかなこと を基準とした。 4. 順位を付した委員は二氏ともに賞に該当するとの意見であった ので賞の精神、「良い仕事をした人を広く顕彰する」に照らし、 「全員で両氏を推薦する」ことの是非の確認作業をおこなった。 そして「両氏を推薦する」をこの委員会の結論とした。 5. 素粒子メダル功労賞は、推薦がなかったので、該当者なしとし た。 <業績の説明> ::素粒子メダル:: 木村 利栄:重力外場中でのカイラルアノマリ-の研究 場の理論における量子効果により対称性の破れである量子異常は、 朝永スクールの宮本米二・福田 博の両氏により最初にその兆候が 発見された。 場の理論における量子異常の現代的な意味での重要性は、1969年 にS.Adler,J.Bell, R.Jackiw により明確にされ、場の理論の基本 的な性質として認識されるに至った。 1969年の Adler の論文に触発され、木村氏は、重力場の存在す るときのカイラル量子異常の計算を、それまでの同氏の研究で培 われた曲がった空間での場の理論の知識を用いて、綺麗な計算で導 出した。計算は攝動論によるものであったが非攝動論的な計算への 道を開くアイデアも含んでいた。これらは世界で始めてのものであ る。我が国の場の理論研究の伝統の賜物である。重力に関した量子 異常は、Kalua-Klein 理論更には、超弦理論の量子論においてもっ とも重要な性質の一つになっており、この研究の重要性は明らかで ある。 この論文は Prog. Theor.Phys. に発表されたこともあり、内外 に正当に評価せれているとは言いがたい。この様な論文を正当に評 価し顕彰することは賞の精神に合致する。メダルに相応しい業績で ある。 業績: * T. Kimura Divergence of Axial-current in the gravitational field Prog. Theor. Phys. 42(1969)1191 --------------- 牟田 泰三:QCD 理論における繰り込み処方(MS bar scheme)の研究 1970年代に強い相互作用は 't Hooft の非可換ゲージ理論や加速 器の進歩と合間って統一理論が確立していった。この過程の中で、 牟田氏は重要な寄与をなした。 1973年に発見された強い相互作用の漸近自由性によって電子陽電 子消滅過程、深非弾性レプトン・核子散乱等に対する攝動計算の道 が開かれた。 しかし、フルオーダー計算すれば繰り込み処方依存性はなくなる 物理量も有限項までであると依存性がのこる。同氏はこの効果の発 見と攝動計算結果を実験との比較にもっとも便利なスキーム(MS Bar Scheme)を開発し、実際に適用して有効性を示した。この繰り込み処 方の有用性が認められ多方面で使われている。実際に近年では高エ ネルギー分野では普遍的な基準として認められるようになった。ま た、原子核理論や格子ゲージシュミレーションにおいても、理論的 解析の基準として用いられるようになっている。 同氏がこの一連の研究の過程でで多くの若手研究者を育てたが、 その方面での成果の一つに「攝動論的量子色力学」の教科書に関す るものがある。これは世界中のこの方面の研究に新しく参加する若 手研究者に対し多大な貢献をしている。 業績: * W.A. Bardeen, A.J. Buras, D.W. Duke and T. Muta Deep Inelastic Scattering beyond the Leeding Order in Asymptoticaly Free Gauge Theories Phys. Rev. Vol.(1978)3998 * T. Muta Note on the Renormlization-Prescription Dependence of the Quantum-Chromodynamics Calculation of Structure-Function Moments Phys. Rev. Vol. D20(1979)627 * T. Muta Foundations of Quantum Chromodynamics World Science Pub. Co., 424pp, 1987