Date: Fri, 13 Feb 2004 12:56:26 +0900 Subject: [sg-l 2236] 素粒子メダル報告 素粒子論グループの皆様 2003年度素粒子メダルおよび素粒子メダル功労者が選考委員会にて 慎重審議の結果、下記に添付した報告書のとおり決定しましたので お知らせいたします。なお、授賞式は春の学会における素粒子論懇談会 素粒子サブグループの総会にてとり行う予定です。 2004年2月13日 賞ワーキンググループ 菅本晶夫・坂東昌子 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 2003年度素粒子メダル及び素粒子メダル功労賞 選考報告書 素粒子論委員会企画・会員・賞ワーキンググループ責任者 坂東昌子 様 2003年度の素粒子メダル及び同功労賞の選考が以下のように終了 しましたので、ご報告いたします。 2004年2月10日 2003年度素粒子メダル選考委員会 江口 徹 *九後汰一郎 二宮正夫 藤川和夫 益川敏英 柳田 勉 (* 委員長) -------------------------- Report------------------------ 2003年度素粒子メダル受賞者: 高橋 康: 場の理論における恒等式の研究 2003年度素粒子メダル功労賞受賞者: 小沼通二:素粒子奨学会の設立以来の責任者として若手研究者育成に貢献 <選考の経過> 1. 2003年12月15日受賞者推薦締め切り 素粒子メダル 2件、素粒子メダル功労賞 1件の推薦を受け付けた。 2. 選考委員全員が素粒子メダル推薦業績の原論文閲読等により、 素粒子メダル規則や設立趣意書の選考基準に照らして業績を審査し、 各自の審査結果を文章にして、委員間で交換ないし委員長に報告した。 3. その結果、素粒子メダルの1件および素粒子メダル功労賞1件への授賞には にはほぼ全員の支持が得られた。が、もう1件の素粒子メダルの候補には時期 尚早などの理由で必ずしも今回の授賞を支持しない意見が過半を占めた。 4. 素粒子メダルの規則には「素粒子メダル:毎年1〜2件(定着したら1件)」 とあり、今回は第四回であり、ある程度定着したと考えて良い時期だというこ と で今年の素粒子メダルは一件にしぼることを決めた。また、素粒子メダルの受 賞 資格の問題を若干議論した後、標記素粒子メダルの1件および素粒子メダル功労 賞 1件を「委員会として推薦する」ことを確認した。 <業績の説明> ::素粒子メダル:: 高橋 康: 場の理論における恒等式の研究 量子電気力学(QED)のくりこみ理論の定式化において、Wardの恒等式 と呼ばれる関係式が重要な働きをした。すなわち、電子の波動関数の (線形発散に関係した)くりこみ定数と光子と電子の間の結合を表す 頂点関数の(対数的な発散を示す)くりこみ定数の間に関係があるこ とを示し、くりこみ理論の一般的な扱いを見通しのよいものにした。 高橋康博士は、このWardの恒等式を、理論を記述するLagrangianが持 つ任意の対称性をGreen関数の間の関係として表現する恒等式に一般化 した。 このようにして定式化されたWard-高橋の恒等式は、連続的な対称性に 対して成立するNoetherの定理とならんで、現代的な場の量子論におい て対称性の原理を表現する最も基本的な関係式となっている。 Ward-高橋の恒等式は、素粒子論のみならず物性理論等における場の理論 の応用においても多用されており、その重要性は論を俟たない。 高橋先生(と故梅沢先生)が在籍されたAlberta大学には日本の素粒子 論の研究者のみならず統計力学の若手研究者等も多く訪問し活発な 研究が行われたことも周知のことである。この面でも先生の素粒子論 グループへの寄与は大きい。 業績: * Y. Takahashi, On the generalized Ward identity, Nuovo Cimento 6, 371 (1957). --------------- ::素粒子メダル功労賞:: 小沼通二:素粒子奨学会の設立以来の責任者として若手研究者育成に貢献 素粒子奨学会は、中村誠太郎先生により1973年に設立され、2003年度までで延べ 149名にのぼる若手研究者に奨学金を支給してきた。今年度も素粒子論(原子核 理論、宇宙線、宇宙物理を含む)の研究者1名を募集した。小沼通二先生は、こ の奨学会の設立当初から今日まで、一貫してその事務局の責任者として中村誠太 郎先生を補佐し、奨学生募集、選考委員の依頼や審査委員会の手配など、奨学会 の運営にかかわる事務全般の仕事を引き受けられ、素粒子論グループの若手研究 者育成に大きく貢献されてきた。この奨学金の原資は中村誠太郎先生が民間の篤 志家から集められた浄財によるものであり、中村先生無しにはもちろん素粒子奨 学会の存在は考えられないが、一方、小沼先生の熱意と事務能力に裏打ちされた 全面的支援無しには、素粒子奨学会の事業が今日まで31年間の長きにわたって存 続することができなかったこともまた明らかである。また最近では、小沼先生自 らが運営委員長として募金活動を引きついでおられる。 近年は、学術振興会の特別研究員の他、21世紀COE研究拠点のポスドクなどが多 数採用されるようになってきたが、依然として無給の苦しい生活の中で地道に研 究を進めているオーバードクターも数多くいる。素粒子奨学生は、研究場所を自 分で選び、書き下ろしの奨学生論文で応募するというユニークなもので、奨学金 の額が少ないにもかかわらず、採用された奨学生が受ける精神的励ましは非常に 大きなものがある。この素粒子奨学生となって苦しいオーバードクター時代を乗 り越えられた人達の中から、幾多の優れた研究者が育ったことを考えるならば、 中村先生とともに小沼先生が支えられてきた素粒子奨学会の活動は、大変素晴ら しいものであり、素粒子論グループメンバーの研究活動に大きく貢献されてきた と考える。ここに小沼先生に第二回素粒子メダル功労賞をお贈りしその功績をた たえたい。 もちろん、この素粒子奨学会の活動は、中村先生や小沼先生のみならず、常任委 員の森田正人先生、河原林研先生をはじめ、多くの素粒子奨学会委員および外部 委嘱審査委員の協力によって支えられて来たことは言を待たない。殊に昨年急逝 されるまで奨学生審査の実質的責任者として長くご尽力頂いた河原林先生のご貢 献はまことに大きなものがあった。このことを特に記して我々の謝意を表した い。 -------------- end of report ---------- -- Masako Bando