Date: Fri, 24 Feb 2006 14:57:54 +0900 (JST)
Subject: [sg-l 3238] 素粒子メダル選考報告

素粒子論グループの皆様へ、

今年度素粒子メダルの選考報告を、2005年度素粒子メダル選考委員会             
委員長小平治郎氏から頂きましたのでご報告します。

                     2005年度 素粒子論委員会 企画wg 賞担当     石川健三
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             2005年度素粒子メダル及び素粒子メダル功労賞

                     選考報告書


2005年度の素粒子メダル及び同功労賞の選考が以下のように終了しましたので、
ご報告いたします。

                                                          2006年2月23日
                                        2005年度素粒子メダル選考委員会
                               
                                        植松恒夫  江口 徹 *小平治郎
                        夏梅 誠 東島 清 米谷民明
                                      
                                                           (* 委員長)
------------------------------ Report ---------------------------------

2005年度素粒子メダル受賞者:
  ・大貫義郎: 基本粒子の対称性としての U(3) 群の研究
 ・川合 光: 非摂動論的2次元量子重力の研究
 ・風間洋一、鈴木久男: 風間・鈴木模型の提唱

2005年度素粒子メダル功労賞受賞者:
    該当者なし


<選考の経過>

1.2005年度受賞者推薦件数
  素粒子メダル 3件、素粒子メダル功労賞 0件。
                             

2.選考基準はこれまでのものを踏まえることを確認し、メールを通して選考を
おこなった。選考委員が推薦状と推薦業績の原論文を閲読し、独立した立場で報告書
を作成した。報告書には素粒子メダルに
    推挙する・推挙しない・(この時点では)判断保留
  いずれかの判断とその理由を添えた。
   (各自外部に参考意見を求めても良いとした。)

3.全員の報告書が出そろった時点で、委員長は集計結果を各委員に報告。推薦業績
が学問的に傑出している点では全選考委員の意見は一致した。ただ、今年度までは
「従来の選考規定による」という了解の下、その一貫性に関する議論が幾つか交わさ
れた。その結果、素粒子メダル受賞者は選考委員会の判断で、推薦者のそれとは異な
る結果となった。

4.なお、今回も、メダルの性格、選考基準および選考方法等について、委員から種
々の意見が寄せられた。これらの意見は、別途まとめて素粒子論委員会に送付する予
定である。

5.素粒子メダル功労賞は、今回推薦がなかったので、該当者なしとした。

以上

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受賞理由書:
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受賞者: 大貫義郎

受賞業績: 基本粒子の対称性としての U(3)群の研究

受賞理由:

陽子、中性子、Λ粒子を基本粒子と考える坂田模型では、質量の若干の違いを無視
すれば、3つの粒子の入れ替えに対し,強い相互作用が不変となることが期待され
る。このことから、小川修三氏や山口嘉夫氏は、πとK粒子にη粒子を加えて、8個
の粒子が8重項(オクテット)を作ることを提唱した。それに続く、池田峰夫、大
貫義郎、小川修三の3氏の共同研究に基づく論文は、3次元のユニタリー群を用いて
坂田模型の数学的枠組みを構築し、現代的なハドロンの8重項模型の基礎を与えた。
坂田模型は最終的な理論とはならなかったが、この論文において展開されたU(3)群
の既約表現の構成法は、坂田模型を一旦数学的に抽象化することを可能にし、その
後のクォーク模型への道筋を開いた。このように、池田—小川—大貫氏の業績は、
非常に有用であったのみならず、模型に数学的抽象化を施して、さらなる発展の契
機を与えたという意味で、理論物理学における模範的な手法を実現した歴史的業績
である。

参考文献:

    M. Ikeda, S. Ogawa and Y. Ohnuki,  
    A POSSIBLE SYMMETRY IN SAKATA'S MODEL OF BOSONs-BARYONS SYSTEM, 
    Prog. Theor. Phys. 22 (1959) 715.
    M. Ikeda, S. Ogawa and Y. Ohnuki,
    A POSSIBLE SYMMETRY IN SAKATA'S MODEL OF BOSONs-BARYONS SYSTEM II, 
    Prog. Theor. Phys. 23 (1960) 1073.
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受賞者: 風間洋一、鈴木久男

推薦業績: 風間・鈴木模型の提唱

受賞理由:

超弦模型は、重力を含む全ての相互作用を統ーする理論の有力な候補である。
しかし、摂動論による超弦理論は時空が10次元の場合のみ構成することがで
き、したがって、余分な6次元をコンパクト化する必要がある。この問題に一
石を投じたのが、風間-鈴木模型である。この模型は、4次元でN=1時空超対
称性を有するコンパクト化模型にとって重要な、世界面上の N=2超共形代数の
構成に関し Coset 空間を用いた一般的方法論を与え、商空間が N=2 の超共形
不変性を持つのは、商空間がエルミート対称空間と呼ばれる一群の空間である
ことを示した。また、この方法で一連の可解な N=2超共形場理論の構成に成功
した。本業績は超弦理論のコンパクト化に関して標準的な模型を確立したもの
として極めて高い評価を得ており、超弦理論における、古典的業績としてのゆ
るぎない地位を確立している。日本の超弦理論研究の大きな成果と認められる。

参考文献:

    Y. Kazama and H. Suzuki,
    NEW N=2 SUPERCONFORMAL FIELD THEORIES AND SUPERSTRING
    COMPACTIFICATION,
    Nucl.Phys. B321 (1989) 232.
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受賞者: 川合光

受賞業績: 非摂動論的2次元量子重力の研究

受賞理由:

素粒子論と宇宙論の標準模型が確立した現在、この両者を包含する理論の構築
は物理学の中心的なテーマとなっている。この課題の追求には、重力の量子論
の繰り込み不可能性などの困難を解決することが必要である。弦理論は最も有
力な候補であるが、物理的予言を引き出すには非摂動的な定式化が不可欠であ
ると考えられる。そのような背景の下、2次元量子重力の研究は、重力理論お
よび弦理論の非摂動論的定式化へ向けて、時空揺らぎの厳密な取扱いの具体例
を与え重要な役割を果たしている。本業績では、経路積分および共形場理論の
手法を用いて、多くの問題を新たな視点から整理して明解な定式化を与え、乱
雑2次元面の統計力学的な性質に対し、連続理論の立場から初めて具体的で信
頼のおける予言を与えることに成功した。その意味で本業績は弦理論の発展に
も大きく貢献しており、歴史的な評価の定まった古典的業績と認められる。

参考文献:

   J. Distler and H. Kawai,  
   CONFORMAL FIELD THEORY AND 2-D QUANTUM GRAVITY,
   Nucl.Phys. B321 (1989) 509.
   J. Distler, Z. Hlousek and H. Kawai,
   SUPERLIOUVILIE THEORY AS A TWO-DIMENSIONAL, SUPERCONFORMAL 
   SUPERGRAVITY THEORY, 
   Int.J.Mod.Phys. A5 (1990) 391.
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