Date: 2018年9月2日 12:56
From: Toshifumi Noumi 
Subject: [Sg-l:3674] 素粒子メダルの審査結果および授賞式について

素粒子論グループのみなさま

素粒子メダル選考委員会委員長の小林達夫氏より、2018年度素粒子メダルおよび素粒子メダル功労賞の選考結果が報告されましたので転送いたします。また、秋の学会の素粒子論懇談会(9月16日、信州大学)においてメダルの授与式を行いますことを、合わせてご連絡させていただきます。


素粒子論委員会 素粒子メダル担当
野海俊文

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第18回(2018年度)素粒子メダル選考の報告

2018年度の素粒子メダル1件1名を以下のように選考しましたので、ご報告いたします。


選考委員会:
小林 達夫(委員長)、鈴木 久男(副委員長)、青木
健一、大川祐司、兼村晋哉、山口 昌弘
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<2018年度素粒子メダル>
〇東島清氏
「改善された梯子近似のSD方程式によるQCDにおけるカイラル対称性の破れの研究」

<選考経緯>
本年度は、素粒子メダルに関して2件4名の推薦があった。この推薦論文に関して、

まず選考委員それぞれが推薦状と推薦業績の原論文と関連論文を精査し、意見を出し合った。

そして、おのおのの検討結果を共有し、受賞の可否を議論し、最終的意見の一致をみた。


選考結果:本年度素粒子メダルは、1件1名と決定した。

なお、本年度、素粒子メダル功労賞の推薦は無かった。

<授賞理由>
<素粒子メダル>
○東島清氏
「改善された梯子近似SD方程式によるQCDにおける
カイラル対称性の自発的破れの研究」
K. Higashijima, Dynamical chiral-symmetry breaking,
Phys. Rev. D29 (1984) 1228. DOI:10.1103/PhysRevD.29.1228.

カイラル対称性の自発的破れは、強い相互作用によるクォーク
質量の生成にとどまらず、統一理論からの多様性出現の機構として、
現代においても素粒子論の根幹である。
    
南部・ジョナラシニオ(1961)は4フェルミ相互作用模型において、
平均場近似を用いた解析を行い、結合定数が臨界値を超えると
自発的質量生成が起こることを示し、自発的対称性の破れの概念を
素粒子論に導入した。益川・中島(1974)は、ゲージ相互作用において、
質量関数のシュウィンガー・ダイソン(SD)方程式を梯子近似で解析し、
臨界結合定数を越えるとカイラル対称性が自発的に破れることを示した。
ただし、これらの先行研究においては、陽な紫外カットオフが必要であった。
    
東島氏はQCDにおける漸近自由性に着目し、梯子近似SD方程式の中の
ゲージ結合定数を、内線運動量に依存する有効結合定数に置き換えた
「改善された梯子近似」を提唱した。SD方程式内のループ積分が紫外収束
するので、紫外カットオフによる不定性なく解が求まることになる。
他方、QCDの有効結合定数は赤外側で発散するので、あるスケール
から赤外側での有効結合定数を定数とした。そして、赤外側での
有効結合定数が臨界結合定数を超えると、自発的質量生成の解が
存在することを示した。また、得られた質量関数の解は、裸の質量の
有無に関わらず、くりこみ群と演算子積展開から得られる
漸近的振る舞いの初項を正しく再現することも示した。
    
この「改善された梯子近似」による方法は、その解が正しい漸近的振る舞い
を持つこともあって、QCDあるいはSD方程式に限らず、
標準模型を越える物理での多様な模型の解析に適用された。
また、数値解析のために必要な計算資源が非常に少なく、
格子ゲージ理論のモンテカルロ・シミュレーションによる非摂動的計算と
対極的・相補的で有効な解析的手法として、確立している。
    
本選考委員会は、本業績を素粒子メダルにふさわしい業績として認定する。
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