[sg-l 4047] 素粒子論メダル報告書(修正版) Date: 2007年9月11日 18:20:14:JST 皆様、 素粒子論メダル選考委員会委員長の川合光氏より 報告書の修正版が送られてきましたので、転送致します。 素粒子論委員会 素粒子論メダル担当 松尾 泰 %%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%% 2007年度素粒子メダル受賞者: ・二宮正夫:格子場の理論におけるカイラル対称性の研究 ・稲見武夫、林青司:フレーバーを変える中性カレントにおける重い粒子の寄与の研究 <選考の経過> 1.メールで選考手続きについて意見交換を行った後、選考委員が集まり協議した結果、 出席者全員の意見が一致し、以上の結果に達した。なお、海外出張中だった江口徹氏は 棄権することとなった。 2.また、選考手続きや公表方法等について多少曖昧な点が見受けられたので、それら についての指摘・提言を素粒子論委員会に送付した。 以上 ----------------------------------------------------------------------- 受賞理由書: ----------------------------------------------------------------------- 受賞者: 二宮正夫 受賞業績:格子場の理論におけるカイラル対称性の研究 受賞理由: 格子場の理論は場を構成的に定式化する事実上唯一の方法であるが、フェルミオン場を 素朴に扱うと、フェルミオンが一つではなくて自動的にいくつか含まれてしまうという ダブリングの問題があり、それを解消しようとすると、今度はフェルミオンの重要な対 称性であるカイラル対称性が損なわれてしまう。カイラル対称性を明白にもち、しかも ダブリングが生じないような理論があれば大変便利であるが、実は、それが不可能であ ることを示したのが、Nielsen-NinomiyaのNo-Go定理であり、格子場の理論における もっとも基本的な定理の一つである。 二宮氏は1980年ごろ、ダブリング問題は運動量空間のトポロジカルな性質に由来する ことに気づき、Holger Bech Nielsenと共同で、次の3つの仮定を満たす理論は、必 然的にダブリングを生じることを代数的位相幾何学(参考文献(1))あるいは指数定理 (参考文献(2))を用いて厳密な証明を行った。その仮定は、 1) 相互作用の局所性 2) 格子上での並進不変性 3) ハミルトニアンあるいは作用のエルミート性 である。 Nielsen-Ninomiyaのこの2編の論文は発表直後から大きな反響を呼び、反例となる モデルを構成する試みが多く行われたが、ことごとく失敗に終わった。結局、カイラル 対称性自身を再検討する必要があるということになり、実際、LuscherとNeubergerは、 1990年代終わり頃に、通常のγ5の定義を変更し、運動項との反交換子をとると格子 間隔に比例する項が生じる、という新しい定義式(Ginsparg-Wilson relationと 呼ばれる)を用いることによって、カイラル対称性を連続極限において実現するモデル を構成した。 このように、Nielsen-Ninomiya のNo-Go定理は、格子場の理論における記念碑的な論文と考えられ、国際的に高い評価 を受けており、素粒子メダルを授与して顕彰するのがふさわしいと判断される。 参考文献: (1)Absence Of Neutrinos On A Lattice. I -- Proof By Homotopy Theory -- Nuclear Physics B 185: 20, 1981 (2)Absence Of Neutrinos On A Lattice. II --Intuitive Topological Proof-- Nuclear Physics B 193: 173, 1981 ----------------------------------------------------------------------------------------------- 受賞者: 稲見武夫、林青司 受賞業績: フレーバーを変える中性カレントにおける重い粒子の寄与の研究 受賞理由: フレーバーを変える中性カレントによって起きる現象は、重い粒子の質量などを探るのに 適しており、チャームクォークの導入とその質量の決定に大きな役割を果たした。80年 代初頭、漠然とした予想としてトップクォークは15GeVから25GeV程度の質量を 持つと思われており、WやZよりも重いとは(ほんの一部の人以外には)予想していなか った。 しかしながら、稲見・林両氏はこの偏見に囚われることなく、フレーバーを変える中性 カレント過程への重いクォークやレプトンの効果を計算し、その効果は抑制されない(デカ ップルしない)という重要な結論を導いた。彼らの導いた式はCPの破れやB中間子の崩壊 等の解析に用いる事ができるため、現在でもInami-Lim Functionとして広く使われている。 稲見・林氏の業績は、標準模型確立後における研究の方向をしっかりと見極めつつ進め た仕事として高く評価されており、素粒子メダルを授与して顕彰するのがふさわしいと判 断される。 参考文献: T. Inami and C.S. Lim, Effects of Superheavy Quarks and Leptons in Low-Energy Weak Processes K(L) --> μ anti-μ, K+ --> pi+ ν anti-ν and K0 <--> anti-K0, Progr. Theor. Phys. 65 (1981) 297-314.