Date: Mon, 19 Jul 2021 11:29:34 +0900
From: Kazunobu Maruyoshi 
Subject: [Sg-l:5947] 素粒子メダルの選考結果および授賞式について

素粒子論グループの皆様

素粒子メダル選考委員会委員長の日笠健一氏より、
2021年度第21回素粒子メダルの選考結果が報告されましたので、転送いたします。

授賞式は秋の学会の素粒子論懇談会(9月16日(木)、オンライン)において行われます。
よろしくお願いいたします。

素粒子論委員会 素粒子メダル担当
丸吉一暢

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第21回(2021年度)素粒子メダル選考の報告

2021年度の素粒子メダル1件1名を以下のように選考しましたので、ご報告いたします。 


選考委員会:
日笠 健一(委員長)、糸山 浩司、野尻 美保子、久野 純治、諸井 健夫、林 青司

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<2021年度素粒子メダル>
宮沢弘成氏
「核子3体力の理論の原点たる研究」

J. Fujita and H. Miyazawa,
"Pion theory of three-body forces,"
Prog. Theor. Phys. 17, 360--365 (1957).

<選考経緯>
本年度は2件の推薦があり,選考委員会で検討の結果,そのうち1件について,
素粒子メダルの趣旨が業績に対する賞であることを考慮の上,以下の論文の業
績に対し授賞することとした。なお,論文の著者2名のうち1名は故人であるこ
とにより,授賞者は1名となる。


<授賞理由>
湯川中間子論の提唱と,それに続くパイオンの発見により,核子間に働く強い
相互作用がパイオンの交換により生ずるという描像が成立した。しかし,パイ
オン交換による核子2体間のポテンシャルを用いると,三重水素などの3体系の
束縛エネルギーを必ずしも再現できなかった。

藤田純一(故人)・宮沢弘成は,3体力ポテンシャルに対する寄与として,核
子間にパイオンが交換される途中で,別の核子と散乱する過程を考え,その大
きさおよびスピン・アイソスピン構造を求めるために,強い相互作用の散乱振
幅の解析性に基づく当時最新の分散関係式の理論をこの問題に適用し,パイオ
ン・核子散乱断面積のデータを用いて評価した。その結果は,それ以前の中間
子論に基づく場の理論を用いた計算とは大きく異なっており,2体ポテンシャ
ルの和としては表せない3体力の大きさが,2体力の1割程度であることが見い
だされた。この結論には,Δ共鳴の中間状態の効果が大きく寄与している。

その後,核子3体力の研究は特に今世紀に入る前後から盛んになり,カイラル
有効理論に基づく系統的なアプローチにより,長距離における3体力の主成分
が藤田・宮沢の記述で与えられることが裏付けられた。中性子過剰核などの性
質の理解,中性子星など高密度核物質の物性にも3体力は重要視されている。
実験的にも,陽子・重陽子散乱の精密データなどを用いて3体力成分の測定が
行われ,理論の検証がなされている。このように,核子3体力は原子核物理の
現代的なテーマの一つとなっており,藤田・宮沢の業績は,この分野の研究の
端緒を拓いたものとして高く評価される。

なお,この業績は現在では原子核分野に分類されると思われるが,賞の規則に
「素粒子論およびその周辺分野で挙げられた顕著な業績を顕彰し」とあること,
また,この研究が行われた当時はハドロンの強い相互作用が素粒子論の中心的
なテーマであったことを考慮し,素粒子メダルにふさわしいと判断した。
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