2020年日本物理学会理論核物理領域:若手奨励賞(第21回核理論新人論文賞)受賞者(所属は当時のもの)


受賞者名:門内 晶彦(高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所) 題名:原子核衝突で作られる有限密度QCD物質の状態方程式 Equation of state at finite densities for QCD matter in nuclear collisions 論文題目:Equation of state at finite densities for QCD matter in nuclear collisions 著者: Akihiko Monnai, Björn Schenke, Chun Shen 発行雑誌:Phys. Rev. C 100, 024907 (2019). 受賞理由: 有限密度QCD物質の状態方程式は、高温/高密度な環境下でのハドロン現象を理解する際に不可欠であり、 重イオン衝突実験やコンパクト天体の観測が進展したことで、近年大きな関心を集めている。密度ゼロ での状態方程式は、格子QCD計算から第一原理的に求めることができるが、有限密度では、符号問題の ために格子QCD計算の実行は困難である。そのため、なるべく理論の不定性を排除し、第一原理計算の 結果を尊重した状態方程式の構築が求められている。 本論文で著者らは、格子QCD計算とハドロン共鳴ガス模型に基づいて、有限密度QCD物質の状態方程式を 構築し、相対論的重イオン衝突に応用している。重イオン衝突へ応用するには3つの保存量(バリオン数 ・ストレンジネス・電荷)に対する化学ポテンシャルが必要であり、温度を含めた(T,μB,μS,μQ)の 4次元空間での状態方程式が議論されている。高温・低密度領域での状態方程式はμ/T展開で表現し、 展開係数が格子QCD計算により決定されている。また低温・有限密度領域ではハドロン共鳴ガス模型を 採用し、これらを滑らかにつなぐことで、有限密度QCD物質の状態方程式が構築された。さらに、この 状態方程式の性質を分析するとともに、流体模型に適用することで、重イオン衝突での粒子生成量を 実験データと比較している。その結果、(T,μB,μS,μQ)空間で状態方程式を決定することの重要性が 指摘されている。 この研究は、有限密度領域の探索が本格的に行われるビームエネルギー走査実験の第2期(BES II)に 向けて、標準的と考えられる要素を組みあわせて状態方程式を構築したものであり、今後の研究において 広く用いられると期待され、高く評価できる。また候補者は、これまでにも重イオン衝突の現象論に 関して、オリジナリティの高い仕事を行ってきており、本論文においても候補者の貢献が明らかに認め られる。以上のことから、本論文は日本物理学会若手奨励賞に相応しいと判断する。
受賞者の方には、2020年3月の学会年会において若手奨励賞受賞記念講演を行なっていただく予定です。 (核理論委員長 福嶋 健二、担当幹事 木村 真明)
核理論委員会(2019年10月24日)