2025年日本物理学会理論核物理領域:若手奨励賞(第25回核理論新人論文賞)受賞者(所属は当時のもの)
受賞者:衣川 友那 (東京都立大学)
著者:Tomona Kinugawa (対象者) and Tetsuo Hyodo
発行雑誌:PHYSICAL REVIEW C 109, 045205 (2024)
論文題目:Compositeness of Tcc and X(3872) by considering decay and coupled-channels effects
研究題目:「エキゾチックハドロンの複合性に関する理論的研究」
英文題目:''Theoretical study on the compositeness of exotic hadrons''
授賞理由:
エキゾチックハドロンはハドロン構造の多様性やその起源を解明する上で重要な研究対象である。エキゾチックハドロンの多くは励起状態であり、また、散乱しきい値近傍に観測されるものも多く、エキゾチックハドロンの内部構造、特に複合性に注目が集まっている。一般に、しきい値に近い緩い束縛状態の複合性は、低エネルギー普遍性から複合状態が支配的になると予想されてきたが、崩壊過程やチャネル結合の影響を適切に考慮した複合性の議論は充分になされていなかった。
本研究では、非相対論的有効場理論を用いて、緩い束縛状態の複合性が詳細に分析されている。候補者は、Weinbergによって導入された複合性の議論を、共鳴状態やチャネル結合がある場合に拡張し、bare stateと2体の散乱状態で構成される有効場理論を構築した。この理論を用いて、束縛エネルギーが小さくても複合状態でない成分が現れうることを示した。また、散乱状態間の4点相互作用、結合チャネル、崩壊チャネルの影響を考慮し、議論を一般化した。さらに候補者は、この理論をTccやX(3872)といった実際のエキゾチックハドロン系に適用し、これらの粒子の構造を理解するにはチャネル結合の考慮が不可欠であることを明らかにした。本研究は、しきい値に近い束縛状態の構造について、様々な効果の重要性を定量的に議論する方法を提示している。全ての計算過程が明確に示されており、今後、エキゾチックハドロンに限らず、幅広い系への応用が期待される。
候補者の研究は、エキゾチックハドロンの構造解明に新たな視点をもたらし、強い相互作用の理解とハドロン構造の多様性の解明に重要な貢献をしている。その理論的アプローチの独創性と、様々な物理系への応用可能性の高さから、本研究は日本物理学会若手奨励賞にふさわしいと判断する。
受賞者の方には、2025年3月の学会において若手奨励賞受賞記念講演を行なっていただく予定です。
(核理論委員長 緒方 一介、担当幹事 中田 仁)
核理論委員会(2024年10月17日)