学部生の皆様へ


学部生の皆様、特に大学院進学をお考えの皆様、私のホームページに立ち寄ってくださり ありがとうございます。何かの縁かと思いますので、ここで宇宙を研究するという職業、 及び私達のグループについての簡単な紹介をさせて頂きたいと思います(詳しい研究内容に つきましては「研究内容」、「論文リスト」をご参照ください)。

宇宙という存在自体が謎であり、私達は宇宙を思う時、神秘を感じずにはいられません。 また宇宙には多くの不思議な現象、謎の天体が存在し、私達はこれらの存在に直面するとき、 人智を超えた遥かなるものに触れたと思わずにはいられません。 しかしながらそれを神秘とせず、人智を超えた存在とせず、人類の叡智を以ってこれの 理解にあたる学問を宇宙物理学、或は天文学と呼びます。私達は物理学、大型計算機、 観測機器という道具を用いて、これらの現象の解明に取り組みます。 もちろん宇宙にはまだ発見すらされていない、未知の現象にさえ富んでいます。 私達はこれら発見されていない現象にも興味を持ち、その存在を推定し、観測可能性 すら検討します。

私達のグループではガンマ線バーストという謎の天体に興味を持ち、これの解明に 力を注いでいます。ガンマ線バーストとは宇宙最大規模の爆発現象で、多くの謎に つつまれ、私達はこれを理解したいと考えています。ガンマ線バーストを理解する時、 他の高エネルギー天体、即ち活動銀河核、中性子星、ブラックホール、超新星 などといった天体現象と共通する物理を見いだすと信じています。即ち、私達は 高エネルギー天体の本質を理解すると信じています。ガンマ線バーストを理解する時、 私達は逆にこれを利用し、宇宙の長さを測るものさしに使えるかもしれないと考えて います。ガンマ線バーストというものさしで、宇宙自身の進化を探ることが出来るかも しれません。ガンマ線バースト現象の中心部分にはブラックホールが存在する可能性が 高いと言われています。私達はこのブラックホールを真に理解しようと努める時、 物理的な特異点と向き合うことになるでしょう。この理解に向けて努力する時、私達は 宇宙開闢時の物理的特異点との類似を想像せずにはいられません。私達はガンマ線バースト を理解しようとすることで、宇宙開闢現象についての示唆を得ることが出来るかもしれません。 ガンマ線バーストの研究には多くの可能性が秘められているのです。

研究という仕事に真剣に取り組むとき、自然と視線は(日本を含めた)国際的な方向へと 向くことになります。私達は国内はもちろん、国際的な会議に出席し、美しい街、立派な 大学で多くの外国の研究者と情報交換をし、友人となります。あなたが望めば、更に海外 で研究する場を得ることが出来るかもしれません。もちろん研究は日本でも充分可能です。 あなたはあなたが選んだ環境で、自らの能力を引き出し、自らの可能性を試すチャンスを 得ることが出来ます。晴れて独り立ちした研究者になった暁には、あなたは自らが本当に面白いと 思うテーマを自ら立案し、このテーマの解明に(時に共同研究者と)取り組み、得られた成果を 国際的な舞台で発表することになります。あなたは能動的な人生を歩んでいると実感し、今正に 生きていると実感しながら日々の生活を送ることが出来るでしょう。

このように宇宙を研究するという職業は大変魅力的なものなのですが、逆にそれ故 競争も厳しく、宇宙の研究をして飯を食うという、いわゆるプロになることは そう簡単なことではありません。博士の学位はストレートで行ったとしても27歳 頃に取得することになりますが、博士の学位を取ったとしてもプロになれるとは 限りません。その後も厳しい競争が続き、それを乗り越えてプロの研究者になれる のは一握りの人間しかいないということを初めにお伝えしておかなければなりません。

私は、大学院の学生さんを指導する時には、彼(彼女)を国際的に活躍出来る 研究者として育成することを教育目標に掲げています。博士の学位を取得する 時点で既に国際的に通用するだけの研究者として成長していれば、私の研究室を 卒業した後も自信を持って自分の研究を続けることが出来、 いずれはプロの研究者として認められる 日が来るであろうと信じているからです。 宇宙の理論を研究する時、(実験と比べると) お金はそれ程には必要ではありません。理論家は外国との資金力の差を感じる ことはあまりありません。日本には計算機資源も比較的豊富にあります。 現在では日本にも英語の教科書は沢山あり、注文をすれば欲しい書籍は 殆んど手にいれることが出来ます。私の所属している京都大学の図書館には、 過去の文献など、世界に負けない量が保存されています。インターネットも 普及しており、最新の情報戦で負けることも殆んどありません。マンパワーも殆んど 変りません(理論の場合、数人程度で学術論文を作成することが 多いと思います)。日本でも世界レベルの業績を挙げる環境は揃っていると 思います。

研究者になりたいと思う時、その人の才能、資質は重要ではあると思いますが、 私は京都大学の大学院入試に合格する程度の学力を持つ人は 誰でも研究者になれる可能性があると 信じています。一番重要なことは絶対に研究者になるという、強い志だと思います。 その次に重要であると私が考えていることは物理数学です。 宇宙の研究(特に理論)は物理学を道具にするということは既に上に述べました。 もちろん物理学は物理数学という言語で表現されています。ですので、物理の勉強の前に 学部生の皆さんには是非物理数学の勉強をしっかりして貰いたいと考えています。 物理数学といっても、それ程大袈裟なことではありません。まずは実数の積分(出来れば 複素数の積分も)、変数変換、行列の計算など出来れば充分かと思います。充分に、 自由に使いこなせることが必要です。もしも大学院入学時点で物理数学の準備が 不足していたならば、大学院の生活は物理数学の準備からスタートすることに なります。

物理数学の準備をして私達のグループに入ってきて頂けたならば、後は皆さんの興味に 応じたテーマ設定、テーマの解決に向けた自由で綿密な議論など、私達は皆さんが研究者に なるための可能な限りのサポートをお約束致します。あなたの可能性への挑戦の場を私達の グループに見つけて貰えれば嬉しく思います。上にも述べましたように研究者への道のりは 決して平坦ではないと思いますが、悲壮感を打ち出す必要もないと私は思います。 プロの研究者になってからも楽しいですが、プロになるまでの過程も是非楽しんで貰いたいと 思っています。私達はあなたが楽しく研究出来るような環境を提供していきたいと考えて います。

最後になりますが、上にも述べた通り、理論の研究とは少人数で行うことが多いと思います (極端な時は一人で仕事をまとめる時すらあります)。逆に言えば、一人グループに 加わると、それはグループ全体に大きなプラスとなることを意味します。 私達はあなたの力を必要としています。あなたの参加を心から歓迎します。

最後まで読んでくださりありがとうございました。

2006年7月、スタンフォードにて
2011年2月、京大広報に掲載された記事はこちら