基礎物理学研究所市民講演会

ブラックホール

--アインシュタイン理論と宇宙の姿 --

2007年 12月1日(土曜日) 13:00-16:00
京都大学理学部6号館 401 号室
京都市左京区北白川追分町(京都大学北部キャンパス内)

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基礎物理学研究所では以下のテーマについて 市民向の講演会を行います。理論物理学の基礎的な話題について 解説する予定です。

「Unravelling Einstein’s Secrets (アインシュタインの神秘をのぞく)」


Canterbury大学名誉教授 Roy Kerr

カー教授は、アインシュタイン方程式の回転するブラックホール解を発見した研究者です。その解は、「カー解」と呼ばれており、アインシュタイン方程 式の最も有名かつ重要な解のひとつです。その業績に対して、昨年マーセル・グロスマン賞を受賞されました。宇宙に存在するすべてのブラックホールはカー解 で表されると考えられています。

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Kerr 教授


In the middle of last century it was realised that the sky was full of mysterious objects emitting very intense radio waves. Because of the way that their intensities were changing rapidly they had to be very small and so they were called quasi-stellar radio sources, or Quasars. In 1963 a meeting of over 300 astronomers and their theoretical colleagues, both astrophysicists and general relativists, was organised in Dallas to try to find an explanation for these quasars. I gave the only talk by a relativist, "Gravitational collapse and rotation". The mathematical solution for the gravitational field outside a non-rotating star had been constructed by Schwarzschild soon after Einstein’s original paper on General Relativity. This has the strange property that if the star collapses inside its "Schwarzschild radius", then it is lost forever. It was conjectured by most that if the star were spinning then this would not happen and so "Black Holes" were considered science fiction. In my Dallas talk I gave a mathematical solution for a spinning star, something that theorists had been hunting for 40+ years, and showed that the spin of the collapsing star would not stop a black hole forming. At that time the astronomers ignored this paper completely but it is now believed that there is a supermassive black hole inside the center of most if not all galaxies and that the most violent events in the universe are associated with accretion disks around these. In this talk I will tell the story of the discovery of this solution and of its application to these colossal events.

(日本語訳) 20世紀の中頃,非常に強い電波を出すなぞの天体,クェーサーが多数見つかった。その電波強度が非常に速い時間変動をすることから,その天体のサイズは極 めて小さくなくてはならなかった。1963年,クェーサーの正体を明らかにしようと, 300名以上の天文学者や理論宇宙物理学者がダラスに集まった。そこで私は唯一の相対論学者として「重力崩壊と回転」という講演をした。回転のない星の外 部重力場を表す解はアインシュタインが一般相対論を発表した直後にシュバルツシルトによって求められていた。この解の不思議さは,星が一旦「シュバルツシ ルト半径」に入ると決して戻ってこられないことであった。しかしそれまでは星の回転さえ考えれば,このような不可思議な星,「ブラックホール」は存在しな いだろうと考えられていた。私は,当時それまでに40年以上にわたって捜し求められていた回転星の外部解を示し,回転がブラックホール形成の妨げにならな いことを示した。当時の天文学者は私のこの論文を無視したが,現在ではほとんどの銀河中心に超巨大ブラックホールがあり,宇宙で最も激しい現象のひとつは これらの超巨大ブラックホールの周りの降着円盤で起こることが知られている。この講演では回転するブラックホール解,カー解発見の物語と,上で述べたよう な激しい天体現象におけるカー解の役割について話します。


「ブラックホールはどう見える?」

京都大学基礎物理学研究所教授 嶺重 慎

嶺重教授は、ブラックホール天文学の分野で世界的に活躍する研究者です。ブラックホールは宇宙のいたるところに存在すると考えられていますが,嶺重 教授はブラックホールを取り巻く円盤の不安定性を解明し、その現象の観測からブラックホールが発見できることを示しました。その業績に対して、今年井上科 学振興財団井上学術賞を受賞されました。

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嶺重 慎教授

ブラックホールはかつて、観念上の産物でありSFの格好のテーマでもあった。 しかし、近年、ブラックホールの存在は数々の「発見」により、広く天文学者 に認められるようになった。そして今、ブラックホールの「観測」が電波から X線、ガンマ線まで、様々な波長の光で盛んに行われている。
しかし、ブラックホールはそもそも光も出さない天体のはずである。それなの に、どうして「観測する」ことができるのだろうか。また、ブラックホールは どのようにでき、どのように成長してきたのだろうか。回転するブラックホー ル、カー・ブラックホールは、回転していないブラックホールとどう見え方が 違うのだろうか。さらにブラックホールという存在は、宇宙にとって、わたし たちにとって、どのような意味を持つのだろうか。
じつは、ブラックホールは、多量のガスやエネルギーを放出する天体であると 言うと皆さんは驚かれるだろうか。たくさん吸い込むけど、たくさん放出する 天体、それがブラックホール。もっとも、ガスやエネルギーはブラックホール そのものからではなく、その周りの極限宇宙から生み出される。その生み出す エネルギーは、周りの空間にも、そして宇宙全体にも、大きな影響を与えてい るのである。ブラックホールも、やはり、宇宙に無くてはならない、重要な一 構成員といえる。
講演では、最新の研究成果をもとに、あまり人に知られていないブラックホー ルの素顔を紹介し、上に挙げた問いについて共に考えてみたい。


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